「シングルマザーの数を正確に把握しないと、必要な家族にサービスが行き渡りません」
2020年4月3日
2020/2/11
筆者について
アントラ・バットさん 写真:UN Women/ライアン・ブラウン
アントラ・バットさんはUN
Womenのリサーチ・データチームの統計スペシャリストです。UN Womenの職員になる前は、インドのムンバイにあるタタ社会科学研究所の研究者でした。バットさんは、イタリアのローマ・トル・ヴェルガータ大学で国際開発の博士号を、シカゴ大学のハリス公共政策大学院で公共政策の修士号を取得しています。
持続可能な開発のための2030年アジェンダは、「誰一人取り残さない」という原則を重視していますが、シングルマザーは、その数が公式なデータでは正しく把握されていないために取り残されています。
ナイジェリアのバゲ・ジッダさんは、27歳の寡婦で4人の子どもの母です。目の前で夫を虐殺され、ボコ・ハラムの人質として3年間を過ごした後に救出され、難民キャンプに移動しました。トラウマに苦しみながらも、その後彼女はUN Womenの支援プログラムを通じて仕立てのスキルを身につけ、経済的に自立しました。現在は小さな家を借りて子どもたちと暮らしていますが、貯蓄もなく社会保障も受けられず、生活はとても不安定です。
バゲさんだけではありません。世界では1億人以上の女性が、バゲさんのように一人で子どもを育てています。「世界の女性の進歩(2019~2020)」によると、その多くは25~54歳の働き盛りの年齢の女性で、子どもを育てるために朝から晩まで働きづめの日々をおくらなくてはなりません。25歳未満のシングルマザーは3.4%、つまり380万人もの若い女性が脆弱な状態にあることになります。さらに、そのうちの127,000人が18歳未満の少女で、母子だけで暮らしていると推定されています。そのような思春期にある母親の多くは、複雑に絡み合った様々な不平等に直面しています。
他にも、収入がない、冨や資産に縁がないという理由で、多くの女性が親戚と共に拡大家族の中で暮らすことを余儀なくされています。その中では、彼女たちは「財布の紐を握っている人」の言うことを聞くしかありません。インドでは、母子家庭が1,300万世帯ある一方、拡大家族の中で暮らすシングルマザーが3,200万人います。
世界全体をみると、バゲさんのように母子だけで暮らすシングルマザーは1億130万人います。さらに、公式な統計には含まれていないために、その置かれている状況や考えられる脆弱性、収入や支援の必要性が政策立案者に認識されていない女性が少なくとも同じ数だけ、つまり1億130万人います。
では、世帯調査などの公式の調査で、家族に関する情報がどのように収集されているのかをみてみましょう。
ほとんどの世帯調査では、世帯主を中心にして家族の関係が定義されており、世帯主は暗に(時にははっきりと)世帯の男性とされています。このジェンダーバイアスがあるために、拡大家族などの大家族の中では家族間の関係を適切に把握することができず、シングルマザーを特定することが難しくなっています。世帯の中に成人男性がいない場合は、他の女性の親戚と同居している子どもを持つ女性をシングルマザーとして把握することができます。しかし、シングルマザーが義理の親戚やその他の複数の親戚と共に暮らしている場合、その拡大家族の中でシングルマザーとして把握することはほとんどできません。
数を正確に把握していないことが、なぜそれほど重要なのでしょうか。なぜなら、相当な数のシングルマザーの存在が認識されないということは、国が家族政策を再設計する際に、彼女たちのニーズが完全に無視されるということだからです。例えば、「男性が働き女性が家庭を守る」という家族構成を念頭に設計された社会政策では、両方の役割をこなす何百万もの女性のニーズを十分に満たしたり、拡大家族や一人親家族の中で暮らす大多数の女性を適切に支援したりすることは不可能です。
シングルマザーやその他の脆弱なグループの数を正確に把握できていないという問題を解決するには、二方面からのアプローチが必要です。まず、各国の統計局は、行政データや国勢調査のデータを年齢、性別、その他の社会経済的特性別に分解する必要があります。そうすることで、世帯の中で最も脆弱な個人を特定することができます。次に当局は、今後の調査においては、世帯主についての情報さえ集めれば、その世帯の各個人の生活の状況について理解するには十分であるという考え方を改めなければなりません。
家族を支援するための法律や政策、社会福祉制度を適切に設計するためには、家族の全メンバーを調査する必要があります。そうすることによってはじめて、私たちは「誰一人取り残さない」ことが達成できるのです。
(翻訳者:松本香代子・実務翻訳スクール)
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会