ガザ地区においてCOVID-19によるロックダウンで引き離された母子の再会を支援
2020年8月29日
パレスチナでは、新型コロナウイルスによるロックダウンのために法的な後ろ盾を失った多くの女性が、子どもとの面会交流権や親権の確保ができなくなっています。法律の機能停止に乗じた前夫が、母親と子どもの面会を妨害したり生活費の送金を止めたりしています。UN Women、UNDP、UNICEFによる共同プログラムでは、弁護士を訓練して371人のパレスチナ人女性に無料で法的支援を提供しました。
2020年7月13日
1歳半と3歳の2人の娘をもつマリマ*は、夫から見捨てられ仕送りも受けらず絶望的な気持ちになっていました。
「子どもたちにおむつやミルクを買うことさえできなかったので、娘たちを助けてもらおうと夫の実家に行きました。夫がとったひどい態度と私たちを置いて出ていったことについて、義理の親に文句を言ったのですが、逆に義母はとんでもなく怒ってしまい、あげくの果てに私だけが実家から追い返されてしまいました。幼い娘たちはまだ幼くて母親を必要としているので翌日には返してもらえると思い、その日は仕方なくその場を立ち去りましたが、その願いはかないませんでした」と、マリマは当時のことを話しました。
その後もマリマは娘たちを取り返そうとしましたが、弁護士を雇うこともできず、誰一人頼れる人もいませんでした。
他のパレスチナ地域と同様にガザ地区では、家族に関する法律はイスラムの家族法に基づいており、イスラム教徒の結婚、離婚、親権や扶養に関する権利が規定されています。しかし、苦しい経済状況のため弁護士を雇って親権や扶養について申立てができる女性はほとんどいないのが実情です。
そのような中、マリマは複数の女性からパレスチナ人権センター(PCHR)に行けば無料の法的支援を受けられると聞きました。PCHRを初めて訪れたとき、マリマは娘たちに3ヶ月も会っていませんでした。マリマから聴き取りを終えた弁護士が裁判所に親権請求の申立てをして、裁判所は彼女に有利な判決を下しました。
「これでやっと娘たちに会えると大喜びしたのもつかの間で、新型コロナウイルス対応のためにシャリーア裁判所やその判決を執行する警察を含む公的機関が閉鎖されてしまい、判決は結局実行されませんでした」。
ガザ地区は世界で最も人口密度が高い地域の1つで、新型コロナウイルスの拡大防止のため2020年3月にロックダウンが実施され、裁判所も閉鎖されました。そのため法的な後ろ盾を失った多くの女性が、子どもに会うことができなくなっています。法律の機能停止に乗じた前夫が、母親と子どもの面会を妨害したり生活費の送金を止めたりしているのです。
判決が実行されなかったのでマリマはまた絶望的な気持ちになりましたが、裁判が開かれない状況の下、弁護士がPCHRの広報ネットワークを通じて友好的に問題を解決するために、司法警察と義理の親に話をしてくれました。
「緊急なケースとして、新型コロナウイルスによるロックダウンの解除を待てないというPCHRと他の非営利団体の要請を受け、裁判所が判決執行の再開を判断してくれたのは幸運でした。ようやく3ヶ月間離ればなれだった娘たちに再会できてとても嬉しく思いました」と話してくれました。
弁護士は次に扶養手当も申立てしましたが、夫はすでにトルコに出国していたため、夫が帰国するまでの間、代わりとなる公的な扶養基金からの支援を請求しました。
PCHR研修生のハヤ・アル・ウェハイディ弁護士が、依頼人の未成年の子どもの親権請求をするために、ガザ地区のシャリーア裁判所で申立てをしている様子 (写真:PCHR)
PCHRはUN Women、UNDP、UNICEFと共同で「パレスチナにおける法の支配の促進」(SAWASYA II)というプログラムを実施しています。本プログラムではオランダ、スウェーデン、スペイン各政府からの資金提供を受け、イスラムの家族法について若手の弁護士を訓練して、裁判で最も弱い立場にあるパレスチナ人女性の弁護ができるように取り組んでいます。2019年7月にUN Womenとのパートナーシップを結んで以降、PCHRは29人の弁護士を訓練し、法律相談や代理人活動など無料の法的支援を371人のパレスチナ人女性に提供しました。新型コロナウイルスの対応が開始した2020年3月から対面での相談が許されるまでの間、PCHRは150人以上の女性に対して電話による代理人活動や法律相談をしました。
PCHR女性部門代表のモナ・アルシャワは次のように言います。「経済が困難な状況にあるガザ地区では、訪ねてくるほとんどの女性は交通費を払う余裕さえありません。したがって多くの女性が司法にアクセスすることができず、親権や扶養の権利が守られていない状況にあります。最も緊急な事案は扶養に関するもので、その他に子どもとの面会交流権や親権に関する事案もあります」。
離婚や別居で父親が親権を有している場合、女性には決められた時間しか子どもに会う権利が認められていません。
PCHR研修生のビッサン・エル・レダウィ弁護士が、ガザ地区で離婚した依頼者の親権を代理で申立てしている様子。ガザ地区で離婚した女性は特に弱い立場にあり、しばしば周囲から偏見や差別の目で見られることがあり、収入も不安定で子どもの親権を失う危険性があります。(写真提供:PCHR)
アミナ*には12歳と13歳の子どもがいますが、離婚したため2人の子どもは親権をもつ前夫と暮らしています。法律によって子どもに会うことが認められているのは、自宅で月2回24時間、外で週1回3時間だけです。
「子どもたちに会える時間はわずかでしたが、前夫が考えていることよりはましでした。彼は子供に全く会わせたくなかったのです。前夫は、いつも子どもたちが会いにこられない言い訳をさがしては、会わせないようにしていました。ガザ地区で新型コロナウイルスが広がり始めてからは、それをいいことに子どもたちが会いにくることを邪魔していました」。
そして前夫は面会交流権を取り消す申立てを起こしましたが、アミナがPCHRの代理人と裁判所に行くと裁判所はアミナに有利な判決を下しました。
「今までは前夫のことが恐ろしかったのですが、私が法律で守られていることを知って、今では前夫の方が私を恐れています。更に弁護士がついていて、子どもに会うことを妨害したら訴えられることもわかっています」とアミナの言葉には自信が満ちあふれていました。
UN Womenパレスチナ特別代表のマリーズ・ギモンドはこう述べます。「パレスチナ人女性は、様々な形で新型コロナウイルスの影響を受けています。子どもの親権への影響もその1つです。危機的な状況においては、女性が司法にアクセスして権利を取り戻す支援についていかなる努力も惜しんではなりません」。
*個人情報保護のため個人名は変更しています。
(翻訳者:外山 宗博・実務翻訳スクール)
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