「私達は人々の人生を変えてきました。変化の担い手として活動してきました」

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2020年9月18日

2020/8/17

世界のどこであれ人道危機が発生すると、最初の対応者として、またリーダーとして女性は重要な役割を果たします。支援が最も届きにくい場所で、女性は人々の暮らしを変え、命を救います。しかし、そうした女性の活動は慢性的に資金不足のうえ、評価もされていません。新型コロナウイルス感染症の拡大により地域社会が深刻な状況に陥っている中、人道的活動において女性・少女と、女性組織を緊急に支援する必要が生じています。バングラデシュ、コロンビア、ヨルダン、ウガンダの女性が参加型動画(グループやコミュニティが自分たちで作るビデオ)で自分達の思いを発信しています。

ウガンダでの研修プログラムで、難民の女性達が「南スーダンの女性には発言する権利がある」というタイトルの動画を制作しました。 写真提供:UN Women

コロンビアのチョコ県にあるキブドでは、女性達が輪になって先住民族エンベラ・ドビダに伝わる伝統的なダンスを披露します。踊り手達の衣裳やスカーフは色鮮やかで、その動きは生き生きとして生気に満ちています。女性達は、長年にわたるコロンビア国内の武力紛争により強制的に居住地を追われた共通の経験を持つことから、「闘争」と「強さ」という絆(きずな)で結ばれています。そして今、紛争で引き裂かれた地域社会を再建しようと取り組んでいます。

チョコ県だけでなく世界のどこであっても、危機のさなか、そしてその後の復旧において女性は最初の対応者として、またリーダーとして重要な役割を果たします。限られた資金や資源(リソース)で、支援を届けるのが最も困難な場所で、女性は人々の暮らしを変え命を救っています。

女性と少女はまた、危機においては特有のニーズと脆弱性を持っています。災害や紛争が女性に与える影響は特に大きく、そのことが女性の寿命、教育、妊産婦の健康、暮らし、栄養状態、暴力被害のレベルなどにも影響を及ぼしています。

こうした格差がある状況にもかかわらず、最近発表されたUN WomenとUNFPAのレポートによると、女性と少女に焦点をあてた人道的プログラムは、全体的な対応と比較して、深刻な資金不足に陥っています。そのレポートによると、そもそも女性や少女が直面している特定のニーズや課題を解決するためのプログラムへの資金要請が少ないだけでなく、要請された金額に対して実際に提供された金額の割合をみると、ジェンダーに基づく暴力撤廃プログラムが31~33%、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)プログラムが42%、子どもの保護のためのプログラムが50%でした。

アフリカ系コロンビア人のエスチュアル・マリア・ブランドンさんは、先住民ワユ族の女性であるマリア・アレジャンドラ・ジャヤリユさんを撮影し、「川からきた女性達、平和の女性達」と題した参加型ビデオを制作しました。写真提供:UN Women

さらに、この危機対応において、地域の女性組織への資金提供が著しく不足しています。

米国政府から資金提供を受けて実施しているUN Womenの研究プロジェクト「マイクを握るのは誰」では、バングラデシュ、コロンビア、ヨルダン、ウガンダで今回の危機の影響を受けている地元の女性や女性団体にそれぞれの活動や課題を話してもらい、それを参加型ビデオに撮影しました。

「この地域には、22年間、女性の組織があり強制的な立ち退きなどに抵抗してきましたが、今も、多くの能力開発プログラムや政治活動プログラムに参加しています」とチョコ県の女性リーダーの一人であるダマリス・パラシオスさんは述べています。彼女は、チョコ県の女性・平和・安全に関する円卓会議に参加しており、ビデオの中でその経験を語っています。

長年にわたり、彼女の組織は能力開発をして地域の女性と若者を支援してきましたが、資金不足で十分に活動ができなかったそうです。「シェルターや事務所さえないので、女性が訪ねて来ることもできません」と彼女は残念そうに言います。

コロンビアにおけるビデオ制作研修プログラムの初日。撮影した内容を振り返る参加者の女性達。 写真提供:UN Women

パラシオスさん達は、より多くの女性を支援するために地域の家庭を1軒1軒訪問し、ワークショップや能力向上などのプログラムを提供して、女性の権利や組織の活動の価値について説明してきました。

「私達は人々の人生を変えてきました。変化の担い手として活動してきました。何軒もの家を訪問しました。地方にも行きましたし、都市にも足を運びました。女性達がどれほど私達を必要としているのかを実感しています」とパラシオスさんは言います。

パラシオスさんの組織のような地域の女性組織が、危機発生時に提供するライフラインは極めて重要です。地域社会が危機がもたらす衝撃や問題に耐え、そこから復活し、立ち直る力を得る手助けをします。しかし、その活動はこれまで評価されておらず、資金も十分ではありません。

「その上、長年の間に培われた地域的な見識と深い文化的な知識を持っていることから、女性の組織は大抵、遠隔地や課題の多い場所での活動を求められます。それにもかかわらず、その専門知識が評価されることは少なく、プログラムの設計、実施、モニタリング、評価などのプロセスに関わることはありません」とUN Woman の研究アナリストであるマリア・フェルナンダ・ノベロ・ドゥアルテさんは言います。

「女性と少女が人道的サービスにアクセスするのを阻む新たな障壁、女性の生活手段の喪失、ジェンダーに基づく暴力の増加など、新型コロナウイルス感染症拡大による前例のない問題に世界が取り組む中、ロックダウン(都市封鎖)、保護(隔離)、移動制限などの状況下で、地域の女性組織による人道支援活動はますます困難になっています。女性組織の人道支援活動に対し、計画的に支援を強化する必要性は待ったなしです」と彼女は付け加えます。

ヨルダンのザータリ難民キャンプでもまた、女性達が限られた資金で奮闘しています。支援をまったく受けずに、リーマさんとザードさんの2人はEVEという若い女性の組織を自主的に設立しました。地域のニーズを把握してリソースを活用することで、資金がなくても大きな影響を生み出してきました。

2人が路上でものを売っている人達に、キャンプにいる身寄りのない子ども達への寄付をお願いしたところ、多くの人が賛同してくれました。そこで、キャンプの子ども達を連れて行き、断食明けのお祝いとして好きな服を選んでもらったのです。

「女性は人生のスピリットだ」と題したビデオを収録した後のヨルダンのシリア人難民女性。写真提供:UN Woman

「『女の子のグループって、いったい何をするつもり?』と多くの人が思ったでしょうが、私達は大きなことを成し遂げました」とザードさんは言います。「何かを作り上げることができました。誇りに思っています」とリーマさんが笑顔で付け加えます。

世界のあらゆるところで、リソースがほとんどなくても多数の女性と少女が、この危機の中でニーズを満たす活動をしています。EVEは、その一つの例にすぎません。適切な資金と支援さえあれば、どんなことでも達成できるに違いありません。

ジェンダー格差の是正を目指す革新的なプログラムへの資金提供は、従来の人道援助活動においては、いわゆる人命救助とは見なされないかもしれませんが、基本的なサービスと持続的な解決法を提供するためには極めて重要です。

ウガンダのユンべ県で、地区の評議員、県議会議長、女性コーカスの議長を務めるチャリティー・ファリダさんは、人道的資金を活用して持続的な影響を生み出すことを重視しています。2020年3月時点で、ユンベ県は南スーダンから約25万人もの難民を受け入れており、ファリダさんは、難民キャンプとそれを受け入れる地域の女性に関する計画と予算がジェンダー課題の解決に対応したものであり、健康、教育、リーダーシップの観点から女性の増大するニーズに対処するものになるように取り組んでいます。

ビデオ制作の研修を受けるウガンダの難民受け入れ地区の女性。写真提供: UN Women

「ジェンダー関連の活動に資金を提供しなければいけません。今でも多くの人々が、女性はリーダーにはなれないと思っています。女性のエンパワーメントに焦点を当てたこうしたプロジェクトにもっと資金を提供して、女性のエンパワーメントが家族全体のエンパワーメントにつながることを皆に、そして世界に認識してもらう必要があります」。

ファリダさんが強調するように、ジェンダーによる格差の是正を目指す革新的プログラムは、長期的には地域社会全体に恩恵をもたらすだけでなく、経済的な投資も回収できます。ジェンダーに焦点を当てた活動の利益は大きく、1米ドルの支出で平均8ドルの利益が出るため、女性と少女を対象とした活動にさらに資金を提供するべきであるということを示す証拠が、世界各地で出ています。

危機においては女性と少女を優先させるという考え方へ移行することは、重要な前進です。地域の女性達がこれまで行ってきた活動を人道支援機関が補完するように、パラダイムシフトをすることも重要です。

幼い頃からバングラデシュに住み、コックスバザールの難民キャンプでロヒンギャ難民の女性のために安全なスペースを運営する、ロヒンギャの弁護士で活動家でもあるラジア・スルタナさんは次のように言いました。「キャンプ内には自主的に組織されたグループがたくさんあります。自分達で自主的につくっているので外部からの支援が必要です」。でも、実際にはその地域で活動する人道支援機関の支援は受けていません。

スルタナさんは、NGOは自分達のプロジェクトやグループ、イニシアチブを優先しがちだが、地域の女性の活動に焦点を当てるべきであると主張しています。「コミュニティを作ることができるのは、その地域の女性です。自分達のニーズや権利、考えに基づいて自分達で作った組織だからこそできるのです」。

(翻訳者:加藤雅子)

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

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