北京行動綱領がもたらした5つの画期的成果(抄訳)
2020年9月25日
2020年3月20日
世界は25年前、北京である約束をしました。世界中の女性・少女が平等な権利と機会を持てるようにするというものです。それは1995年の第4回世界女性会議の場でした。189か国の代表と活動家30,000人が集い、ジェンダー平等の世界を達成するには何が必要かを話し合いました。そして北京宣言と北京行動綱領Beijing Declaration and Platform for Actionを満場一致で採択したのです。これは今日に至るまで、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに関する最も包括的なアジェンダです。
このアジェンダは、現在においても引き続き緊急課題であるようなグローバルな問題を取り上げ、それが女性・少女にどのような影響を与えるかを検証しました。その課題とは、貧困、環境、女性に対する暴力、少女の教育、女性の労働市場への平等な参加、特に高い技術が必要とされる仕事、STEM(科学・技術・工学・数学)分野、上級管理職への参加などです。また有償の仕事と無償の家事労働のバランスを取って、男女が平等に労働を担うことを奨励すること、なども含まれていました。
北京行動綱領は、女性・少女の権利を世界が理解する上で大きな転換点となり、女性・少女の能力を十分引き出すこと(エンパワーメント)が持続可能な開発を達成する上で欠かすことができない、という新しい考え方を生み出しました。
1995年以来、北京行動綱領はジェンダー平等を世界で達成する上での青写真であり続けています。しかしながら実際にはどのような変化が起きて、なぜこの北京行動綱領が今でも女性・少女にとって大切なのかという疑問を持たれるかもしれません。そうであれば、ぜひ以下に述べる女性・少女にもたらされた5つの画期的な成果をご覧ください。
少女の権利向上
少女。北京行動綱領は、女性、特に少女に焦点を当てた最初のグローバルな政策文書です。1990年8月に発効した「児童の権利に関する条約」は子どもの権利を掲げていますが、北京行動綱領は少女の権利をさらに明確にしています。少女が子ども時代を通して差別を受けていること、彼女たちの権利を守る必要があることを明文化しているのです。
少年が少女と違う扱いを受けていることは、あらゆるところで目にします。私は強く、どんなことにも最善を尽くしています。それなのに私を表現する言葉はそれにそぐいません。なぜなら「弱い」「かよわい」「優しい」などだからです。
—アンナ・ラブレニューク 学生リーダー・世論形成者
北京行動綱領は、少女が教育を受けることの重要性を強調し、25年間その前進を促し続けました。少女の初等教育だけでなく、時代に先んじて高等教育、STEM教育の必要性も訴えました。少女の教育に関する包括的なビジョンは、これにとどまりません。北京行動綱領は、少女の就学率の向上だけでなく、中途退学をしないで学校に在学し続けられるような方策にも言及しています。何百万人もの少女の教育を途中で阻んでいるFGM(女性性器切除)、児童婚などの有害な慣習も根絶しようとしているのです。
教育分野でのジェンダー平等を過去25年にわたり忍耐強く推進してきたおかげで、かってないほど多くの少女が学校に通うようになり、就学率のジェンダー平等を達成した国も増えました。
しかし、STEM分野ではいまだに格差があります。STEMを学ぶ女子学生は、全体のうちわずか35%で、世界中のSTEM分野の研究者の中でも女性はわずか30%しかいません。
現状では女性・少女の教育レベルの向上が、労働分野での差別の削減につながっていません。これがジェンダーによる賃金格差是正を難しくしているのです。
地域によっては、包括的な性教育やジェンダー平等教育を初等・中等教育のカリキュラムから外して、大学などの高等教育に限定しようとしています。しかし、性教育は重要です。世界中の女性・少女にどのような性教育やジェンダー平等教育のチャンスがあるのか、またそもそも教育を受けることが可能な状況にあるのか、が重要なのです。
あらゆる政策・プログラムがジェンダー視点に立って策定されることを強調
ジェンダーレンズ。世界の公共政策や国際会議の場では「ジェンダーの主流化」という言葉がよく使われています。でもそれがうまく実世界に反映されていません。それは実際には何を意味するのでしょうか。 北京行動綱領は、ジェンダー主流化をジェンダー平等向上のためのツールとして取り上げたのですが、それはなぜ重要なのでしょうか。「ジェンダー主流化」とは、男性・女性の固有のニーズと平等な権利が、すべての政策、施策(プログラム)、戦略、研究などに目に見える形で確実に組み込まれることを意味します。
ジェンダーに根差す偏見は、あまりにも長い間表面化しなかったため、ジェンダー課題を考慮しないと、(一見、中立に見えるような)政策決定が、実際には逆にジェンダー不平等を助長することがあります。例えば、あなたが地域の村で暮らす少女で、そこに新しい学校が建設されたとします。あなたはクラスに行きつくまでにかなりの距離を歩かなくてはなりません。ということは家事をする時間が少なくなります。昔からのジェンダー役割分担で、家事の負担はあなたの兄弟でなくあなたの方にかかってきているのです。毎日歩いて通学するとハラスメントや暴力を受ける可能性も高まります。生理になれば学校を休みます。学校には女子トイレもなく、生理用品を買うお金もないからです。
「我々の母親は生理用ナプキンなど持っていなかった!」これはジェンダーの視点にたった予算の一環として学校に生理用ナプキンを用意するかと聞かれた時のある国会議員の答えです。私はこの発言にびっくりしました。ジェンダーの視点に立った予算の中に学校に生理用ナプキン供給を組み込むなど、政策立案者にとっては驚くべき発見だったのです。
— パトリシア・ムナビはウガンダの女性の権利を守る団体、民主主義と女性フォーラムの事務局長
学校はすべての若者に恩恵をもたらすはずですが、実際には少女より少年の方が恩恵を受けています。なぜなぜなら、少女の固有の経験や課題が考慮されていないからです。ジェンダー視点に立ち、複雑な現実に対応するツールがないと、政策はかえってジェンダーギャップを広げるリスクを負うことになります。以下に述べていることこそが「ジェンダー主流化」です。それは政策を分析するための戦略です。疑問に思う点があれば、女性・少女の経験を例証するデータを探し、政策による介入が男女のニーズを平等に満たしているかを検証します。同時に、ジェンダーに根づく不平等を助長することがなく、万一不平等があれば、それを確実に克服することに積極的に貢献できるように政策が策定されなければなりません。
北京行動綱領は、ジェンダー平等実現のための戦略の一つとして「ジェンダー主流化」というアプローチを認めた最初のグローバルな枠組みです。政府や他の全てのアクターに対して、すべての政策やプログラムに、ジェンダー主流化を組み込むことを呼びかけ、ジェンダー主流化の重要性をさらに向上させました。
女性に対する暴力根絶の前進
暴力のない人生。第4回世界女性会議では、女性の権利運動のうねりが大きく起こり、女性の人権にかってない注目が集まりました。「人権は女性の権利であり、女性の権利は人権である」とは、当時アメリカ合衆国の大統領夫人だったヒラリー・ロッドハム・クリントンがスピーチで使った言葉で、その後何十年もフェミニストのスローガンになりました。
北京行動綱領は、1979年に国連総会で採択された女性差別撤廃条約(CEDAW)の批准を求めました。この条約は、女性の権利宣言ともよばれ、CEDAWの選択議定書の進展に弾みを付けました。1999年に採択されたた選択議定書は、個人、個々のグループ、NGOが同条約で保証されている権利が侵された場合に、(国家を超えて)直接告発することを可能にしました。これは正義や説明責任を求めるうえで重要な第一歩です。
人権にしっかり裏打ちされた北京行動綱領は、女性が自分の人権を完全な形で享受する権利があるという考え方を強調しています。これにはジェンダーに根差す暴力を受けずに生きる権利が含まれています。北京行動綱領は、女性に対する暴力に包括的に取り組んだ最初の国際的枠組みで、予防を重要戦略とし、社会的規範を変革することに焦点を当てています。
北京行動綱領は、職場、教育機関などでのセクシャルハラスメントに取り組む戦略をすでに求めるという先見の明がありました。この問題に関しては、近年、#MeToo, #TimesUp, #Niunamenos, #NotOneMore, #BalanceTonPorcなどを通して怒りが世界中を駆け巡りました。
北京行動綱領の採択後、女性に対する暴力根絶を法制化する国は増えましたが、暴力はいまだになくなっていません。5人に1人が「親密な関係にあるパートナーからの暴力」(IPV)を受けていますし、新しいICT技術はサイバーハラスメントなどの新しい形の暴力を生み出しています。女性に対する暴力は、我々の時代が取り組むべき最も重大な問題の一つであり続けています。暴力がなくなるまで、予防策やグローバルな協調策の啓発をやめるわけにはいきません。
自然保護や気候変動対策における女性のリーダーシップ強化
女性が我々の地球を守っている。1990年代に盛んになった環境保全リーダーシップをさらに広げ、北京行動綱領は環境問題における女性のリーダーシップに光を当て、女性が男性と平等に参加することが、よりよいガバナンスや環境保全につながることを明確にしました。
社会正義のための闘いと環境保全のための闘いは、別物ではありません。最も貧しい人々、例えば地域に住む先住民族女性は自然災害によってもっとも大きな影響を受けているのです。
—マリア・アレジャンドラ(マジャンドラ)・ロドリゲス・アチャ、気候の公平性を信奉する若いリーダー
北京行動綱領は、女性・少女が環境の知見を保持し、環境を保全し、環境教育に従事することで非常に重要でユニークな役割を果たしていることを認めています。北京行動綱領は、女性に様々な機会を約束していますが、具体的には先住民女性を含む女性が、あらゆるレベルの環境に関する意思決定に参加する、環境破壊の女性へのリスクを軽減する、2000年までにすべての人々がきれいな水にアクセスできるにする、などが含まれています。
進捗状況を見てみると、気候変動に関連する意思決定への場への女性の参加は増えているものの、とても半分には達していません。さらに、2017年時点でも、安全な水を手に入れられるのは世界の71%に過ぎません。
気候変動危機は、土地へのアクセスがない人々、自分の生活を支える資金や資源(リソース)、技術がない人に大きな影響を及ぼしています。世界的に見て農地を所有している女性はわずか14%です。
社会、経済、環境の課題が複雑に絡み合っている現在、北京行動綱領が、女性・少女を含むすべての人に恩恵を与えるような持続可能な関係を環境との間に確立していくことが不可欠です。
女性のリーダーシップの力を発揮
女性はグローバルなリーダー。女性の権利を前進させようとする熱意とエネルギーは、北京会議においても目をみはるものがありました。この会議では何十年も女性の権利のために活動してきた人々やその運動に新しく加わった若者たちが一堂に会しました。
世界中の3万人の活動家、189ヵ国の政府代表が参加したこのイベントの規模だけ見ても女性のリーダーシップのとてつもないパワーに圧倒されます。彼女たちの多様な経験と視点が、北京行動綱領に集約されたことは大変な成果で、北京行動綱領は、今日に至るまでジェンダー平等達成のための重要な戦略であり続けています。
北京行動綱領は、政治のリーダーシップにジェンダークオータ制を導入することに弾みを付けました。特にラテンアメリカや南アフリカで政変のあった1990年代には、列国議会同盟が国会の女性議員数を追跡し、女性の政治参加に道が開けました。
国会議員の男女の比率が半々の国も数カ国あります。しかし政府のすべてのレベルで男女比を半々にしようとしている国は非常にまれです。
北京行動綱領は、まず国連システム内でジェンダーバランスを達成することを優先させました。国連本部で男女間に公平にポストを分配する取り組みはすでに始まっていましたが、北京行動綱領は、2000年までに女性が意思決定のできる管理職の50%を占めることを求めました。最新のデータによると、専門職以上のポストの44.2%は、女性が占めており、これは1995年の32.6%から上昇しています。
北京行動綱領に述べられている女性の権利実現への道およびその勢いは、国連内だけではなくそれを超えて、今日に至るまでジェンダー平等運動のインスピレーションとなっています。
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カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会