COVID-19に最前線で立ち向かう難民女性

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2020年12月1日

2020/10/15

患者の世話をするリムさん。写真:UN Women / ダール・アル・ムサヴィア

高齢者は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して最も脆弱な集団の1つで、高齢者の感染防止は各国政府の優先事項であり課題でもあります。医療体制が逼迫し医療従事者が追い詰められる中、シリア難民のリム・アル・ハリフさんは、レバノンのトトリポリで高齢者介護の技能を磨いています。

レバノンにいるシリア難民の女性が専門能力を開発できる機会は限られています。UN Womenの調査によると、レバノンでシリア人の女性が職に就いている割合はシリア人男性の約6分の1で、2019年では、男性の65%に対して女性は10%と推定されています。新型コロナウイルス感染者数が急増していることに加えて経済が急激に後退している現在、状況はさらに複雑です。8月4日にベイルート港で起きた大規模な爆発事故の後、レバノン国内の新型コロナウイルス感染者数は増加の一途を辿り、2020年9月末時点で35,000人を超えました。ベイルート港の爆発事故では30万人が家を失いました。事故以前から過密な状態で暮らしていた人々にとって、たとえ感染が確認されても患者を自宅で隔離するなどということは不可能になりました。

現在トリポリに居を置く34歳のシリア難民女性、リム・アル・ハリフさんにとって、医療に関する研修を受けたり仕事に就いたりすることは簡単ではありませんでした。

シリアのホムス県タルカラハ出身のリムさんは、シリアで戦争が勃発してからちょうど1年後の2012年、ほかの多くの市民同様、家族とともに隣国のレバノンに避難を余儀なくされました。その結果、リムさんは学びはじめて2年目に入っていた看護学の勉強を中断せざるを得ませんでした。

リムさんの家族は最初にアッカール、ついで北レバノン県のトリポリに移住しました。彼女はそこで学業を続けようと思いましたが、看護学校に入るには「年齢制限を超えている」と告げられました。

ですが、UN Womenの援助とフランスのNGOである技術協力開発事業団(ACTED)の協力により、事態はすぐに改善されることになりました。

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、高齢の患者に医療を提供するレバノンのシリア難民リム・アル・ハリフさん。写真:UN Women / ダール・アル・ムサヴィア

それまでに受けた研修、実務経験、その他の基準に関する質問と回答を元に評価が行われ、リムさんは患者中心の医療、医療措置の管理、そして患者と医療従事者双方とのコミュニケーションに関するコースを含めた2カ月の在宅医療研修に参加することになりました。国連人間の安全保障基金(UNTFHS)が支援するプロジェクトの一環として、UN WomenレバノンとトリポリのACTEDは多数のプログラムを実施していますが、この研修もその1つです。

本プロジェクトは、シリア難民とレバノン人の少女と女性を対象に、自分たちの権利を知りそれに対する理解を深めて保護サービスにアクセスできるよう、技能訓練やジェンダーに基づく暴力に関する意識向上のためのセッションを提供する活動です。

リムさんは勤勉でとても熱心な研修生でした。学びたいという強い思いで、10週間で120時間の研修をやり遂げました。研修後のテストでは高得点を獲得し、実習中にみせた技能の高さも評価され、リムさんは学科研修をインターンシップによる実地研修で補完する訓練生の1人に選ばれ、トリポリにある高齢者医療施設「社会サービス医療センター」に派遣されました。

このインターンシップを通じて、研修生は技能を強化し、一般の人と関わり、学んだことを実践することができます。この実践的な研修は、シリアからの難民女性が自国に戻ったときに、よりよい職に就く機会を提供する助けにもなります。

インターンシップ期間中、リムさんは2カ月で80時間の仕事をすることになっていましたが、割り当てられた時間を超えて自主的に働きました。リムさんには人を惹きつけ安心感を与える力があり、素早く技術を修得しました。インターンシップを終えると、同じ医療センターにあるメンタルヘルス部門で、高齢者介護福祉士としてキャッシュフォーワーク(労働対価による支援)プログラムに参加しました。

「仕事が決まったとき、自分は本当に高齢者のことを正しく理解して手助けすることができるだろうかと不安でした。日常の簡単な事もこなせない患者さんに対応するのは、最初はとても大変でした。でも、すぐに慣れました」と、リムさんは振り返ります。

患者の服薬管理、食事や入浴の介助、体温や血圧、血糖値のモニタリング、表在性創傷の治療(必要に応じて)などが彼女の日々の業務です。

「この仕事に就いたことで私の人生は大きく変わりました。今は生活状況もよくなり毎日が充実しています」とリムさんは述べます。

レバノンでは登録看護師の80%は女性です。医師は余っているのに看護師不足が慢性化し、看護師1人当たりの患者数の統計においては世界の中でも地域の中でも後れを取っています。

その結果、国の医療体制が逼迫し、病気の高齢者や子どもなどの家族の世話は、ますます女性と少女に依存するようになっています。リムさんはその現実を認識しています。「私の職務には、患者一人ひとりに対する高度なケア、思いやり、忍耐、寛容さが求められ、さらに今日のコロナウイルス感染症の流行という状況においては、気を緩めず常に注意しておくことも必要です」。

「新型コロナウイルス感染症の発生以来、レバノンの医療現場の最前線にいる女性たちは不安定な条件の中で働いてきました。安全が保証されず危険な状況で働かなければならないことも多いなど、深刻な問題に直面しています。看護婦1人当たりの患者数も急激に増え続けており、今は看護婦1人に対し18人です。これは、基準とされる比率の2倍を超えています。私たちは、レバノンで研修を受けた資格のある医療従事者の数を増やし、彼らに安全で適切な労働条件を提供するために、使える資源はすべて使わなければなりません」と、UN Womenレバノン事務所長のレイチェル・ド-レウイークスさんはいいます。

(翻訳者:松本香代子・実務翻訳スクール)

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

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