UN Womenの支援により、暴力の被害者に対する警察官の対応改善へ
2021年9月2日
2021/7/21
この1年半、新型コロナウイルス感染症拡大によるロックダウンによって、女性が加害者と同じ場所に閉じ込められることになり、コロナ禍以前から蔓延していた女性に対する暴力がさらに深刻化し、女性が助けを得ることができない状況にあります。さらに、なんとか警察に連絡することができても、暴力の被害者にも大きな責任があるとする長年の文化や制度という問題に直面します。
「私たちが直面している最大の課題は、被害者である女性が警察官から責められることを恐れて暴力を報告しないことです」と、パキスタン国立警察アカデミーの所長であるマリア・マフムード警察本部長は言います。「警察官として働き始めたとき、私は警察官が持つ家父長制に基づいた根深い偏見を目の当たりにして衝撃を受けました。刑事司法制度は差別的です。暴力の被害者に汚名を着せ、効率的な支援を行っていません」。
警察官が被害者に寄り添わないということ以外にもさまざまな原因がありますが、2015年の国連報告書によると、警察に助けを求めるのは、世界全体でみると暴力被害を受けた女性の10人に1人にすぎません。UN Womenは、エッセンシャルサービス(欠かすことのできないサービス)に関する活動の中で、また国連薬物犯罪事務所(UNODC)と共同で実施している女性に対するジェンダーに基づく暴力への警察と司法の対応に関する活動の中で、警察改革の推進に努めてきました。
UN Womenは、ジェンダーに配慮した警察活動に関する独自のマニュアルを用いて、パキスタン、コソボ[1] 、モロッコ、また世界最大の難民キャンプであるバングラデシュのコックスバザールなど、世界各地で警察官の研修を実施してきました。今年、UN Womenは、国連薬物犯罪事務所と国際女性警察官協会と共同で、529ページにおよぶ『暴力を受けている女性と少女のためのジェンダーに配慮した警察サービスに関するハンドブック』を発行しました。22カ国で使用される予定のこのハンドブックには、新型コロナウイルス感染症拡大のような危機における対応、女性や少女に対する暴力の防止、また、暴力の被害者のニーズや懸念に対応し加害者の行為に焦点を当てた捜査の実施などについて、実践的で詳細なガイダンスが示されています。
態度を変えて変化を起こす
UN Womenは、2019年と2020年にパキスタンで警察官を対象とした研修を行い、今年は女性の被害者への対応に関するパキスタンに特化した警察官研修マニュアルを作成しました。マフムード所長は、こうした学びをアカデミーでも活用しています。
「UN Womenは、パキスタンの警察官の能力向上を支援してくれる重要なパートナーだと考えています」とマフムード所長は言います。
コソボ警察のドメスティックバイオレンス調査班のリーダーであるタヒール・ハクスホリ少佐は、UN Womenの研修によって暴力の被害者に対する警察官の対応が変わり、「特に、事案を扱う際に偏見を持ったり汚名を着せたりすることがなくなり、問題そのものを優先するようになった」と語っています。
コックスバザール難民キャンプのアティキュール・ラーマン指揮官によると、イスラム教徒である女性難民は男性警察官と話したがらないため、女性警察官が配置されたとのことです。配置された女性警察官は、言葉の壁を乗り越える方法や、そのような脆弱な状況にある人々に共感する方法についても研修を受けているそうです。
UN Womenモロッコは、国家警察の再編を支援してきました。それによって、すべての地方警察署に、暴力を受けた女性への対応方法について研修を受けた警察官から成る独立した部署が設置されています。
こうした警察改革の恩恵を受けた人の中に、2019年に上司から暴力を受けたメクネス市の若い女性がいました。妊娠した彼女を友人が警察に連れて行きました。
彼女は難しい立場におかれていました。モロッコでは婚外性交渉は犯罪であり、彼女はお腹にその「証拠」を宿していたからです。UN Womenとのインタビューで、次のように振り返っています。
「警察署に向かう途中、警察官に無視されるのではないか、私の話を信じてもらえないのではないかと不安になりました。でも、警察署に到着すると、暴力被害女性のための部署のチーフと名乗る女性警察官が温かく迎えてくれました。チーフが女性であれば、理解してもらえるかもしれないと自分に言い聞かせました。その女性警察官はまずこう言いました。『どんなことにも解決策があります』。私はこの言葉を決して忘れません。今では私の人生のモットーになりました。その言葉に励まされて話し出した私を、女性警察官は身を乗り出して真剣に聞いてくれました。そのときは不安で仕方がなく、自分には価値がない、自分の人生は終わったと思っていました。でも、その女性警察官に出会ったことで、私にもまだ人生を取り戻すチャンスがあると感じました」。
「女性警察官が増えることで警察に対する市民の信頼は高まりますが、永続的な変化をもたらすには、より良い政策、構造、慣行を通じて警察文化を変革する必要があります」と、イギリスの元主任警部であるジェーン・タウンズリー国際女性警察官協会事務局長は述べています。
タウンズリー事務局長は、UN Womenのコンサルタントとしてコックスバザールで警察官の研修を実施しており、今回発行されたハンドブックは、人権と安全保障の専門家であるミルコ・フェルナンデス氏と共同で作成したものです。このハンドブックは、警察官研修で使用される他の教材とは異なり、主に警察署の中間管理職を対象としています。
タウンズリー事務局長は次のように語ります。「世界各地で最前線の警察官を研修しても、その警察官を管理・指導する立場の人たちが、女性に対する暴力への効果的な対応の重要性を理解していなければ、せっかくの努力が無駄になってしまうことが明らかになりました。このハンドブックは、警察官が警察官のために書いたものです。このハンドブックを効果的に活用するには、組織レベルで警察官がその実施に責任を持ち、ハンドブックが女性や少女に対する暴力の被害者だけでなく警察組織全体の有効性にもプラスであることを認識することが重要です」。
[1] コソボについての言及は、国際連合安全保障理事会決議1244(1999)の文脈の中にあるものとして解釈されるべきである。
(翻訳者:結城直美)
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会