治安のリスクを避け、地域紛争を調停するシリア人女性たち
2022年11月8日
2022年10月17日
シリアでは、10年以上にわたる長期的な紛争によって無数の命が奪われ、数百万人が国内外に避難し、大部分のインフラが破壊されました。紛争終結に向けた国際社会の調停も、危機を再燃させるようなシリア各地の動きを政府の調停者がうまくつかむことができず、ほぼ停滞しています。そのため、政府による正式な和平活動を前進させるには、地域内外の紛争を解決し、地元の懸念に対処しようとする調停活動が不可欠です。
シリア人女性は、自分たちの地域に影響を与えた様々な紛争の調停に尽力してきました。ほとんどのシリア人女性調停者は、「インサイダー調停者」として活動しています。つまり、彼女たち自身も紛争に何らかの関わりがあり、紛争当事者から信頼できる、信用できる存在として認識されているのです。インサイダー調停者として、女性には2つ強みがあります。1つは人間関係を構築して活用する能力、もう1つは紛争とその当事者について詳細な情報を持っていることです。
この地域の調査によると、紛争によってしばしば社会的に規定されたジェンダーの役割が変わり、地域の調停で女性が以前よりも目に見えるような形で役割を果たすことができるようになったことがわかりました。特にシリアでは男性の移動が制限され、逮捕される危険性があるため、女性がサービスの提供から停戦に至るまで、重要な問題の交渉に参加する機会が生まれました。
停戦交渉と拘束者の解放に向けた仲介
シリアでは、包囲や停戦に関する調停に多くの女性が関わってきました。例えば、内戦の初期、ダマスカス北西部のザバダニ地区が反体制派の支配下に入り始めると、そこは政府によって包囲されました。当局が男性に武器の引き渡しと降伏を要求したため、規制線を越えて安全に移動できるのは女性だけでした。戦前のザバダニでは、女性は家庭の仕事に専念するのが普通でしたが、男性が突然直面した制約とリスクによってこうした力学が変わり、女性が政府軍との交渉に参加することが受け入れられただけでなく、まさに必要なことになりました。
ザバダニの女性たちは、この新たな役割を素早く担い、包囲の終結と停戦の可能性について交渉するために包囲軍との調停プロセスを開始しました。包囲される前、女性たちは地域では目立つ存在ではありませんでした。「女性たちの多くは、夫が反対勢力に加担し、政府から指名手配されたために巻き込まれたのです。女性たちのほとんどは主婦で、地域では正式な役割を担っていませんでしたが、夫を守りたいという思いから重要な役割を果たすようになったのです」と、この問題に詳しい和平構築専門家のサメ・アワドさん*は言います。
初期の頃は女性たちの停戦交渉は成功しましたが、その後、政治状況の変化によって崩壊しました。それでも、一定の期間、「女性たちは民間人を保護し、避難させることに成功しました」とアワドさんは説明します*。
女性調停者はよく、交渉における発言力を強化する戦略的な方法として、他の女性たちと非公式な連合を築きます。例えば、北西部の都市イドリブで、武装派が拘束者の殺害を計画しているという噂を聞いた女性教師のグループは、拘束者の母親を含む幅広い女性たちを説得し、大隊のリーダーの本部に接近させました。その後、派閥のリーダーが軍事評議会と話し合うことに同意し、それから1カ月後、交換取引として拘束者が解放されました。
治安リスクを避けて、財産を守りサービスを利用する
軍入隊年齢のシリア人男性の多くは、政府の支配下にある地域に戻ると徴兵される危険があります。そのため、男性よりも女性の方が帰還する可能性が高く、女性や子どもがまず戻り、住宅、土地、財産、市民文書に関する問題を解決し、その地域の状況や利用できるサービスを見極めるということがよくあります。戻った後は、複雑な財産権の請求やサービスの利用について交渉しなければなりません。
また、かつて反体制派の支配下にあった地域の治安問題やサービス提供に取り組むための政府軍との調停も、シリア人女性が中心となって行っています。「政府が、男性は兵役を終える必要があると主張したので、多くの若い男性は公共の場に出るのを恐れていました」とアワドさん*は説明します。「そこで、女性たちが外に出て、その地域の新しい当局とどこまで話し合いができるかを探ることになったのです。こうした交渉の中で、地域の早期復興について話し合いました」。
この種の調停の一例が、ダマスカスの南にあるアル・キスワ地区でありました。アル・キスワが政府の支配下に戻った後、女性たちは政府当局との調停を慎重に進めました。ザバダニの場合と同様、多くの男性は家から一歩外に出ると逮捕される危険があるため、女性が交渉役を務めることになりました。「地域の代表として女性たちは政党に働きかけ、サービスを受けるための入り口を作り、サービス提供、収穫物の購入、次の収穫に使う肥料の購入、地元の学校の再開、地元の診療所の修理などについて交渉しました」とアワドさん*は述べています。
特にアル・キスワのような地域は、当初、外部からの支援がほとんどなかったため、こうした女性たちの努力が重要でした。人道的支援は極めて限られており、政府によるサービスも提供されていませんでした。こうした困難な状況において、「女性たちは、地域の生活を正常に戻す上で重要な役割を果たしました。これはNGOやドナーから資金提供を受けた組織ではなく、生きるために必要な市民社会の空間でした。自分たちの地域の生き残りを願い、必要に迫られて登場した人たちです」と、アワドさん*は述べています。
社会の結束を修復する
紛争が始まって数年後、ダマスカスの女性主導の市民社会組織であるモバデロンは、社会的関係の分断や首都にやってきた国内避難民(IDP)に対する憤りから、地域的な暴力が増加していることに気づきました。この暴力に対処するため、モバデロンは、地域の首長やムフタールをはじめ、教師や市民社会活動家など影響力のある人々、そして一般住民で構成される地域委員会を設立しました。そして、自分たちの住む地域に影響を及ぼす問題について話し合うことができる中立的な場を設け、これらの問題に対処するための自信とスキルを身につけることができるようにしました。
しばらくして、この女性主導の組織は、シリア西部の沿岸都市タルトゥスに活動を広げ、そこで地域との強い結びつきと存在感を示している別の女性主導の組織と提携しました。アプローチも少し変わりました。モバデロンのメンバーであるファラ・ハサンさん*は、「他の州から多くの国内避難民が流入し、国内避難民と受け入れ側の人々の関係が緊張と亀裂に満ちている地域に焦点を当てました」と語ります。「戦争とIDPの流入のために、サービスがなかったり、十分なサービスが受けられなかったりしたからです。地元の若者たちは、IDPが反対派の支配下にある地域の出身であることから、IDPに戦争の責任があると非難し、近くの難民キャンプにいるIDPに対して暴力で攻撃したのです」。
この暴力によって、地域の不安定さがかなり高まりました。この問題に対処するため、タルトゥスの組織のトップが、受け入れ地域とIDPの関係を改善し、キャンプの住民に対する攻撃をやめさせることを目的とした取り組みを開始しました。
「彼女は地元の有力者や地元企業の関係者に会い、IDPキャンプを地域の一部として統合し、IDPが地域経済に参加できるようにするべきだと説得しました」とハサンさん*は話します。「また、IDPの女性たちと受け入れ地域の女性たちが、料理などについて定期的に交流する場を設け、両者の信頼関係を築くようにしました」。
地域の首長、ビジネス関係者、IDPの女性、受け入れ地域の女性との継続的な交渉を重ねたことで徐々に態度が変わり、タルトゥスの対象地区では、IDPの待遇に顕著な違いが見られました。また、IDPからも、受け入れ地域の住民からの嫌がらせや暴力が減り、子どもたちが学校で受け入れられるようになり、経済的な機会も増えたと報告がありました。
これらは、シリア人女性が紛争を調停し、地域の社会的結束を回復するのに役立った例のほんの一例です。公になっていませんが、その他にも数え切れないほどの仲介の努力が行われています。こうしたシリア人女性の努力が見えにくく疎外されていることは、彼女たちの仕事があまり記録されず、認識されていないことを意味し、女性たちを支援したいと考える人たちに課題を突きつけています。シリア人女性の貢献を称えることは、シリアに永続的かつ包括的な平和をもたらすために、女性たちの仲介能力を活用するための重要な第一歩です。シリア人女性調停者が、複雑な社会規範、政治的な困難、治安上のリスクを乗り越えてどう紛争を解決しているか、そしてそういう女性たちをどう支援すればよいかについては、新しい報告書をお読みください。
* プライバシー保護のため仮名を使用しています。
(翻訳者:結城直美)
How Syrian women navigate security risks to mediate local conflicts | UN Women – Headquarters
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会