セルビアの高齢女性に対するドメスティックバイオレンスに光を当てる
2022年12月19日
2022年9月1日
2021年5月から2022年5月までの1年間、セルビア南部で、ジェンダーに基づく暴力や差別に関する啓発プロジェクトが実施され、約50の農村地区に住む高齢女性177人と高齢男性41人が参加しました。講義や研修を通して、ジェンダーに基づく暴力の種類や特徴、利用可能な保護措置を学びました。これは、市民社会組織アミティが実施したUN Womenのプロジェクトで、ベオグラードのノルウェー大使館の資金援助を受けています。
セルビア赤十字社の調査によると、65歳から74歳の女性の16%が、65歳以降に何らかの暴力を受けており、そのほとんどが、以前からの暴力が継続しているケースでした。また同じ調査から、高齢女性の40%が、15歳以降に現在または過去のパートナーから暴力を受けた経験があることもわかりました。そこでアミティは、高齢女性に対する暴力を防止し低減するため、トルステニクの女性組織とチャイエティナのズラティボルサークルと協力し、トルステニク、チャイエティナ、アレクサンドロヴァツの49の農村地区に住む高齢の男女に全10回の研修会を実施しました。参加者は、高齢女性に対する暴力や差別の種類について学びました。
「高齢女性に対する暴力はいたるところで起きていますが、表に出ることはほとんどありません。ジェンダー面からみると、高齢女性は高齢男性よりも暴力を受けるリスクが高いと言えます。配偶者やパートナー、家族からのドメスティックバイオレンスに長年苦しんできた高齢女性はたくさんいますが、彼女たちは、それを社会で許容されている行為だと思って誰にも話さなかったのです」と、アミティのナデジダ・サタリッチ代表は話します。「高齢女性の中には、恐怖や恥ずかしさ、誰をどのように頼ればいいのか分からない、きっと誰も信じてくれない、という思いから暴力を通報しない人もいます。ですから、高齢女性に対するドメスティックバイオレンスは、家庭内で隠しておく秘密になってしまうのです」。
研修会に参加した、トルステニクのゴルニドゥビッチ村に住むレポサヴァ・オグニャノヴィッチさん(73歳)は、この村でこのような研修会が開かれたことはほとんどなかったと話します。また、この研修会は、ジェンダーに基づく暴力について学ぶだけでなく、他の女性たちと知り合い交流する機会にもなりました。
「この村の住人は高齢者ばかりで、訪れる人もほとんどいません。ですから、最初は寂しさからこの研修会に参加しました。若い頃、平手打ちをされたことがありますが、当時はそれを暴力だとは思いませんでした。やらなければならない家事が山ほどありましたし、第一誰に文句を言えばよかったのでしょう。結局、黙って我慢するしかなかったのです」と、オグニャノヴィッチさんは話します。「でも、たくさんのことを学んだ今は、暴力を受けたら我慢せず声をあげなさい、そして冷たい視線や態度も暴力の一種なのだ、と若い人たちに教えることができます」。
住民への研修会の他、トルステニクとチャイエティナで高齢者の在宅介護サービスを行うボランティア向けの研修会も実施しました。参加者は、高齢女性に対する暴力や差別を認識するスキルを身につけ、該当する行為を見かけたら通報するよう指導を受けました。さらに、ウジツェとクルシェバツの2都市でも研修会を行いました。これには、ズラティボル郡とラシナ郡の女性市民社会組織や公的機関から、高齢者支援に携わる47人の専門家が参加して、ジェンダーに基づく暴力の形態や高齢女性に対する差別を認識し、それに対応するスキルを身につけました。
ナデジダ・サタリッチ代表は、高齢者に対するジェンダーに基づく暴力は、まだ体系的に扱われていないテーマで、被害者支援サービスも高齢者には届きにくいと指摘します。「今回、かなり人里離れた地区もありましたが、地方に住む高齢女性たちと直接触れ合うことができ、大変満足しています。そして初めて、男性の高齢者と話をすることもできました。全員がドメスティックバイオレンスを認識する研修を受けていて、それについて話し合いました」と、サタリッチ代表は述べています。
研修会に参加した、トルステニクのウェリカドレノワ村に住むラドゥンカ・ミロサヴリェヴィッチさん(65歳)は、この村では、女性に対する暴力は、許されないものではなく普通の行為と捉えられている、と言います。
さらに、「女性は、夫や舅姑、そして子どもにさえも逆らうことなく、黙って我慢しています。この村では、女性にひどい身体的虐待をすることは暴力とみなされるものの、平手打ちや、女性を侮辱したり罵倒したりすることは、なぜか容認されています。この研修会で、私にはどのような権利があり、どのような行為が暴力で、誰に助けを求め、どこから支援が受けられるのかを知ることができました」と、話しました。
ナデジダ・サタリッチ代表は、地方の現場から豊富な情報が収集できたことも、今回のプロジェクトの成果だと話します。これは、高齢女性だけでなく、地方に住む女性一般の立場や問題を理解する重要な手がかりとなります。また、高齢者が集まって悩みを話し合う場を提供することもできました。
(翻訳者:祖父江 美穂)
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会