ウクライナと食料・燃料の危機:知っておくべき4つのこと

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2022年12月19日

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ウクライナで戦争が始まって7か月目に入りました。人道、経済、環境への悪影響が拡大し続けています。その負担はウクライナ国内だけでなく世界各地に及んでおり、他の紛争や危機にある地域の状況が悪化しています。  

 UN Womenは最新の政策文書で、この戦争によって引き起こされ悪化している相互に関連した危機について探っています。以下に知っておくべき4つのことを述べます。 

ナイジェリアのアブジャの市場でキャッサバ粉を売る女性たち。ナイジェリアではコストを抑えるため、輸入小麦からつくった小麦粉にキャッサバ粉を加えてパンやビスケット、ケーキなどを焼いています。写真: IFPRI/ミロ・ミッチェル

1. ウクライナ戦争は世界的な食料とエネルギーの危機を引き起こしています

世界の食料とエネルギーの市場は戦争による負担を感じています。これは、世界中の人々も同じように感じていることを意味しています。

ロシアとウクライナは主食となる作物の一大産地で、アルメニア、アゼルバイジャン、エリトリア、ジョージア、モンゴル、ソマリアにおける小麦供給量の90%を提供しています。ウクライナはまた、120を超える国の1億1,150万人に対して食糧支援をしている国連世界食糧計画(WFP)にとっては、主要な小麦の供給国でもあります。さらにロシアは世界の3大産油国のひとつであり、天然ガスに関しては世界第2の産出国で最大の輸出国です。

戦争によって生産と輸出のプロセスが混乱しているため、これらの必需品がますます入手しにくくなっています。世界各国で石油とガスの入手がかなり困難になっています。世界の小麦、トウモロコシ、大麦の大部分はウクライナとロシアにとどまったままです。また、特に土壌がやせた国の農業に不可欠な肥料も、世界中で必要な量の大部分がロシアとベラルーシにとどまっています。ウクライナの穀物輸出を8月1日に再開することに合意した黒海穀物イニシアチブによって、少しでも状況が緩和されることが期待されています。 

それにもかかわらず、こうした物資の不足によって記録的な物価高騰が生じています。食料価格は2022年に入ってから50%上昇しました。原油価格は現時点で33%の上昇ですが、今年末までに上昇率は50%を超えるとみられています。2021年のアフリカにおけるインフレの主因のひとつでもある燃料輸送費は、戦争開始以来大きく上昇しています。

物価の急騰は世界中の家計を圧迫し、特に途上国への影響が大きくなっています。アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、中東の人たちへの打撃が深刻で、もともと脆弱な家庭が最も高い代償を払っています。

2022年4月21日、ウクライナのオデーサにて食料を受け取るために待っている人たち。写真: IMF /ブレンダン・ホフマン

2. 女性と少女が特に大きい特有の影響を受けています

制度的な不平等によって、女性は危機に対してさらに弱い立場に追い込まれます。ウクライナ国内そして世界各地で、物資不足と物価の高騰が女性と少女を置き去りにし、ますます危険な状態にさらしています。

戦争の前から、女性は男性よりも食料やエネルギーを手に入れるのが困難でした。世界の食料不安に関するジェンダーギャップは、2019年には1.7%でしたが、2021年に4%を超えました。そして世界各地で、エネルギー貧困によって女性と少女に大きな負担がかかっています。

ウクライナでは、女性が世帯主の家庭はもともと食料不安に陥りやすい状態にありました。土地や融資といった資源や正規雇用を手にすることが難しく、給料では22%、年金では32%のジェンダーギャップがあるため、ウクライナの女性は危機の際に頼れるものが少ないのが現状です。

食料不安とエネルギー貧困は健康、教育、家事労働などの領域においてジェンダー不平等を引き起こしています。ウクライナをはじめ世界中で、戦争の波状効果で既存の格差がさらに広がり、女性と少女の安定した生活が脅かされています。

ジェンダーに基づく暴力は、紛争と食料不安によって激化し、増加の一途にあります。ドメスティックバイオレンス、性的搾取、人身取引など様々な形態の女性と少女に対する暴力が、ウクライナだけでなく他の紛争地域でも増加しています。資源や関心がきちんと届いていないことでリスクが高まっています。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大きく増えている児童婚の件数は、さらに上昇するとみられています。これは紛争の影響を受けている地域ではよく見られることで、家族が苦肉の策をとった結果、児童婚率が20%まで上がっています。少女はまた学校を辞めさせられる恐れが高く、エチオピア、ケニア、ソマリアにおいて退学の危機にある子どもの数は、ここ3か月で100万人から330万人に増えています。

女性と少女の飢えも深刻です。家族全員分の食料がないときは、家族の食べ物を確保するため女性は自分の分を切り詰めて我慢しています。こうした風潮はウクライナや他の紛争地域でよく見られ、女性の栄養失調や貧血を悪化させる原因になっています。

増大した家事労働の負担も女性にのしかかっています。物資不足の状況下で食料や燃料を得るには時間や労力がいつも以上に必要で、この新たな負担がもともとあった家庭内の不平等をさらに大きくしています。

ウクライナやその他の場所で、交差する形態の差別によってジェンダー不平等が悪化し、もともと弱い立場にある人たちがさらに大きな危険にさらされています。

干ばつと飢饉の恐れから避難してきた、子どもを抱くソマリアの女性。ソマリアや他の危機的状況にある地域において、ウクライナ戦争がもたらした穀物の不足が食料不足を深刻化させています。写真: WFP/サマンサ・レインダース

3. 世界の食料とエネルギーのシステムを早急に見直す必要があります

ウクライナ戦争が他の危機と重なるにつれて、その影響によって世界の食料とエネルギーのシステムの根本的な弱さが明らかになっています。

食料不安は戦争が起こる前からすでに深刻化しており、新型コロナウイルス感染症拡大、気候変動、紛争によっておよそ4,400万人が飢餓に瀕しています。2022年、急激な食料不足やその高いリスクに直面している人の数が感染拡大以前より約2億人増え、82か国で合計約3億4,500万人になっています。

エネルギー貧困も蔓延し続け、近年の進展の多くが新型コロナウイルス感染症拡大によって台無しになってしまいました。2020年現在、7億3,300万人がいまだに電気のない生活をしています。24億人もがクリーンクッキングができず、室内の大気汚染によって年間320万人が若くして命を落としており、そのほとんどが女性と子どもです。そして約10億人が、安定した電力供給のない医療施設で手当てを受けています。つまり物価の高騰とサービスの中断により医療が崩壊する可能性があるということです。

化石燃料への依存が大きな原因となって、世界的な食料とエネルギーのシステムが脆弱になっています。エネルギー安全保障を石油とガスから切り離せない限り、市場の変動と物価の高騰の影響を受けやすい状態は続くでしょう。新型コロナウイルス感染症の拡大中にエネルギーを入手できなかった人の多くは、単に支払う余裕がなかっただけです。農業の生産と流通における化石燃料の役割、例えば窒素肥料の生産における天然ガスの役割を考えると、石油価格の高騰が食料価格の不安定にもつながることが分かります。

気候変動や環境危機の深刻化の上にウクライナ戦争が重なることで、化石燃料からの早急な移行が必要なことが明らかになっています。しかし、石油やガス価格の急騰は結局のところ化石燃料エネルギーへの投資を増やすきっかけになってしまうかもしれません。化石燃料産業への棚ぼた式利益が移行への大きな妨げになるでしょう。介入をしなければ、すでに遅々として進まなくなっている脱炭素化が逆戻りしてしまうかもしれません。 

グアテマラの小さな町出身のマーシャ・アリシア・ベナベンテさん。国連の共同プログラムで太陽光発電のエンジニアになる研修を受けました。研修で学んだことを地元のエネルギーシステムの向上に生かしたいと思っています。写真: UN Women/ライアン・ブラウン

4. 持続可能でジェンダーに配慮した解決法が必要です

 ウクライナでの救援、復旧、平和構築の取り組みにおいて、まず留意すべきはジェンダー平等です。しかしこれまでのところ、ほとんどの場合でまったく取り入れられていません。同じことが新型コロナウイルス感染症や気候危機のような他の危機にも当てはまり、ジェンダーに配慮した活動があったとしても不十分で、最悪な場合は存在すらしないという状態です。

化石燃料由来のエネルギーや農業に持続可能な代替品を取り入れることは、世界のジェンダー平等に向けた重要な一歩です。これによって食料やエネルギーの安全保障におけるジェンダーギャップが縮小し、大気汚染による死者が減り、無償のケアや家事労働が軽減されます。そして、女性のための新しいグリーンジョブが生まれ、女性の小規模農業の生産力が向上することになります。

こうした構造的な変化には、多大な資金が必要です。石油やガスの会社に超過利潤税を課し、世界が年間4,230億米ドルを費やしている化石燃料助成金を廃止することで、資金を化石燃料産業からジェンダーに配慮した、持続可能な新しいシステムの構築に配分できます。

何よりも、女性がすべての意思決定の過程に参画しなければなりません。世界が今直面している多くの危機への解決策を見つけるには、女性の参加とリーダーシップこそが必要です。

ギニアの農村で持続可能な農業を実践している女性たち。写真: UN Women/ジョー・サード

(翻訳者:早乙女由紀)

Ukraine and the food and fuel crisis: 4 things to know | UN Women – Headquarters

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

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