カンボジアの農村で気候変動の影響を低減するバイオガス
2023年2月9日
2019年3月25日
筆者:プラシャンティ・スブラマニアム
カンボジア南部のトロパントム村に住むソック・ソピアップさんは、毎朝10時になるとさまざまな用事をすませ、学校に2人の孫を迎えに行きます。ソピアップさんは50代。カンボジアではこの年代になると、女性はたいていゆっくり暮らすのですが、多くの地元の女性がそうであるように、気候変動の影響で負担がますます重くなっています。
タケオ州の他の村と同様に、トロパントムは水にまつわる正反対の2つの被害によって深刻な影響を受けています。水道の水枯がれ、水路や水田が干上がり、村人は水を得るために15~20 kmも歩かなくてはならない時期があったかと思うと、突然の大雨で村が飲み込まれ、穀物が流されてしまう時期もあります。
ソピアップさんが出席した地元の相談会で、「暦どおりに米を作ることはもうできません」とある村人が嘆くと、他の村人たちも口をそろえました。気候変動と自然災害の影響が女性と男性でどう違うのか、女性がいかに気候活動に向けた解決策の源になりうるかについて理解を深めてもらうため、UN Womenと国連環境計画により、2018年のプノンペンでの国家レベルの相談会に続きタケオでも相談会が開かれました。
ポーサット州からきたヌウ・シフォンさんは、「ジェンダー問題や気候変動に関する女性の理解や知識が限られているので、気候適応策と災害の危険について知識や情報を伝えるのはなかなか大変です」と打ち明けつつ、UN Womenと国連環境計画が提供を目指している指導や戦略を歓迎しました。
トロパントムでは作物の収穫高が減り、昔ながらの農民はどうすればもっと見通しの持てる暮らしを構築できるかを考えざるを得ません。若い男性が職を求めて都心部に移り住む一方で、女性と子どもは村に取り残されています。若い女性は平日遅くまで近くの繊維工場で働き、一方年長の女性は畑を手入れし、子どもの世話をし、家事の責任の大部分を背負っています。週末になると、代わって若い女性が農作業を引き受けています。
ソピアップさんの日常も例外ではありませんでした。小さな畑の手入れ、家畜の世話、料理、薪の購入、掃除などをしながら、平日子どもがいない間は孫の世話をしていました。年齢とともに、また要求が増えていくにつれてこの二重の負担が少しずつ重くなり、ソピアップさんの我慢も家族のわずかな収入も限界に近づいていました。複数の世代の女性がこうして気候変動に苦しめられており、働いても働いても収入が減っていくという悪循環に陥って、そこから抜け出せる人はほとんどいません。
そういう状況の中で数年前、ソピアップさんは先々のことを考えて投資をし、地元企業のサポートによって自宅にバイオガスのパイプラインを設置しました。この村の女性で自宅にパイプラインを設置したのは彼女が初めてで、今では自分の牛舎から出る有機肥料をもとにしたバイオガスを使用している数少ない女性の一人です。シンプルでクリーン、しかもコストがかからないこの再生可能エネルギーのおかげで、ソピアップさんの負担が軽減されました。これは、他の人にもすぐにすすめられる良いお手本になりました。
カンボジアの農村部の約85%が薪に頼っており、その価格が上がり続けている中、ソピアップさんにとって薪の使用をやめたことは多くの点で転機になりました。バイオガスへの切り換えで長期的にお金を節約できただけでなく、料理や湯沸かしの時間が短縮でき、そして、もう薪を集めたり買ったり、切ったり、きれいにしたりする必要がなくなったのです。
「これ(バイオガス発生装置)は初期投資が必要で、操作にも不慣れでしたが、今では簡単に操作ができて、他のことに時間を使えるようになりました」とソピアップさんは言います。
彼女は今、この空いた時間で手芸品を作って売り、孫の相手をし、さらには地域のボランティアヘルスワーカーとして健康の問題をテーマに他の女性や若者たちを集め、持続可能なエネルギーやクリーンな燃料に関して意識を高めてもらう活動をしています。
変化への抵抗が強い地域において新しい技術や知識を最初に取り入れるのは、ソピアップさんのような女性です。彼女のような年長の女性の間で、新しい解決策を次々に受け入れ、自分が変化を先導することができるという意識が高まっています。気候災害について互いに注意喚起し、迅速に情報が入手できるようソーシャルメディアや対面での接触を活用するなど、多くの女性が個人的なネットワークを生かして気候変動の影響への対処に取り組んでいます。
ジェンダー平等と人権が気候変動対策と災害リスク軽減の中心に確実に据えられるように、UN Womenと国連環境計画はスウェーデンの国際開発協力庁の支援を受けて「EmPower:気候変動に強い社会のための女性」プロジェクトを共同で進めています。この相談会が、2018年から2022年にバングラデシュ、カンボジア、ベトナムなどアジア太平洋地域で実施されるプロジェクトの基礎になっています。女性が気候政策の決定過程に参加し、その決定には伝統的な知識と合わせて性別、年齢、多様性別に細分化されたデータを活用し、気候と災害の政策に影響を与え、再生可能エネルギーを通して気候変動に強い生計手段を持てるようにすることを目指しています。
カンボジアの気候変動に関する計画、政策、戦略にジェンダー平等が確実に反映されるように、女性が参加してニーズを明確に述べ、地域レベルで変化を推進することに対して環境省が大きな価値を置いて後押ししてきました。
「女性はカンボジアの大黒柱であり稼ぎ手です」とオム・ソフィ環境省次官は言います。「女性が気候変動についてさらに意識を高めて効果的に対応できるように、女性を巻き込み、励まし、より多くの情報を提供する必要があります」。
(翻訳者:早乙女由紀)
Biogas helps offset the effects of climate change | UN Women – Asia-Pacific
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会