心を込めた対応:モルドバに避難したウクライナ難民に向けたカウンセリング付き美容サービス
2023年3月9日
2023年2月20日
ロシア軍によるウクライナへの侵攻が始まったその日から、アナスタシア・バシコさんは、モルドバ中部のアネニイノイ地区にあるフルボバツ村で難民の受け入れに積極的に関わってきました。フルボバツ村出身で28歳のバシコさんは、通訳になる勉強をしていましたが、市民活動とコミュニティ支援への強い関心から、難民や地域の女性に美容サービスと心理的サポートを無料で提供するサロンを始めました。
このサロンは、女性の平和と人道基金(WPHF)から資金提供を受け、UN Womenのパートナー組織であるジェンダー・セントルが支援する「フェミニストと地域に根差した人道支援活動」プロジェクトによって運営されています。
ウクライナ危機が始まったばかりの頃は、バシコさんは主に難民に宿泊施設、食料、衛生用品を提供することに取り組んでいました。しかし、時が経つにつれ、難民女性の抱える大きな心理的ストレスに対処することが必要であることに気がつきました。
「男性の大半は自国に留まっており、現在進行中の紛争に巻き込まれているのは、難民としてここに逃れてきた女性たちです。彼女たちは、自分と子どもたちに必要な食料、衛生用品、衣服、その他のサービスを得るために、あらゆる努力をしなければなりません」と、バシコさんは言います。
バシコさんは行動を起こすことを決意し、WPHFが資金提供するプロジェクトを通じて、ウクライナ難民や地域の女性たちが無料で心理カウンセリングと美容サービスを受けられる場所を提供しています。サロンで髪を切ってもらったりマニキュアをしてもらったりすると女性たちの気持が落ち着き、その間に心理的なカウンセリングも受けられます。
WPHFは現在、モルドバにある20の女性の権利団体や女性主導の組織に経済的支援をしています。支援を受けた各組織は、難民の女性や少女に人道支援や保護を提供し、人道的対応における女性のリーダーシップを促進したり、インクルーシブなコミュニティ(誰も取り残さない包括的なコミュニティ)を構築したりしています。
2023年1月20日に2回目の資金援助を記念して行われた式典で、WPHFのギタ・エル・キヤリ事務局長は、これまで正当な人道支援提供者と見なされていなかった女性や女性の組織を取り巻くストーリーがいかに変化しているかを強調しました。また、難民問題のジェンダー的側面に言及し、次のように述べました。「戦争によって避難した人の大半を女性と少女が占めており、そのことが既存の不平等と脆弱性を悪化させることがよく知られています。ここでは、ウクライナから避難してきた女性と少女を受け入れているコミュニティが、積極的に支援にしているのをみてとても嬉しく思います」。
これまでに、6つの女性の権利団体と女性主導の組織がWPHFから資金提供を受けてプロジェクトを実施し、1,400人を超える避難民が緊急援助を受け、約600人の女性が研修やカウンセリングセッションに参加し、167名の女性がリーダーシッププログラムに参加しました。こうした中で、35人の難民または地元の女性と少女が、バシコさんが運営するプロジェクトの支援を受けました。
さらに、バシコさんのプロジェクトでは、避難してきた女性自身が難民対応に関わる機会を提供しています。その活動は、現地の難民の意見を取り入れて組み立てられ、複数の難民がサロンでボランティアとして関わっています。
モルドバで生まれ、何年も前にウクライナのオデーサに移住してきたアナ・ヴラビーさんも、美容師としてボランティアをしている難民の一人です。「自分の好きなことをしているので、このプロジェクトに参加することは私にとって新鮮な空気を吸うことと同じです。人の役に立てて、少しでも笑顔になってもらえたらとても嬉しいです」とヴラビーさんは言います。
美容サロンは難民とモルドバの地元の人の双方にやすらぎをもたらしています。ここに来れば、ほんの一時であったとしても、現在抱えている問題を忘れることができます。サロンはまた、地域の女性と難民たちが出会い、交流する場にもなっています。
「これまでに、心理学者との面談や、参加者同士が言葉を交わして顔なじみなり一緒に楽しい時間を過ごすようなセッションを実施してきました」とバシコさん。このような会合を通じて、女性たちは自分の感情をコントロールして精神的なストレスを克服することができるようになる、とバシコさんは言います。
支援してきた女性や子どもたちの笑顔や、支援の成果を目の当たりにしたバシコさんは、これからも難民や地域の女性たちに援助を提供していきたいと考えています。
UN Womenモルドバのドミニカ・ストヤノスカ所長は、次のように述べました。「戦争が続く中、難民たちは、当初考えていたよりも滞在が長引くかもしれないと考えています。だからこそ、このプロジェクトを通じて、少しでもその負担を軽くしたいのです」。
翻訳者:松本香代子
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会