ケア社会を解き明かす: 人と地球のケア

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2024年4月24日

2023年11月28日

コンゴ民主共和国スッド・キブ州の女性たちは、早くから集まって、集団で栽培する作物の世話をしている。多くの女性は、子どもの世話をしながら働いている。
写真 UN Women/カティアン・ティジェリーナ

危機の影響はジェンダーに中立的なものではありません。長引く紛争や加速化する気候変動の影響により、女性と少女に要求されるケアの需要は高まっています。このような需要が増加し、大きくなった圧力に公的制度が対処できなくなると、女性と少女がケア労働(care work)の大部分を担うことになります。

重要な公共財であるケア労働は、幸福と持続可能な経済の繁栄を支えています。持続可能な開発目標5.4は、無報酬のケアや家事労働を評価し、家庭内での責任分担を促進し、必要不可欠なサービスと社会保障を提供することを目指しています。しかし、世界中の女性と少女は、無報酬で、認識されることのない、過小評価されたケア労働を不釣り合いな割合で担っています。

気候変動が女性にとってケアの危機をいかに激化させるか

環境悪化と世界的な気候変動は、世界中のケアの危機を激化させています。富や資源の乏しい人々、すなわち、先住民の女性、少数民族、障がいやHIVとともに生きる人々、アフリカ系の女性、開発途上国や小島嶼開発途上国のLGBTIQ+の人々などは、こうした複合的な危機によって特に大きな打撃を受ける可能性があります。女性と少女はすでに男性や少年よりも平均3倍もケア労働に従事しています。気候変動によって、女性と少女が担う無報酬のケアや家事といった不平等な負担はさらに増幅します。

水不足の矢面に立たされる女性たち

女性と少女、特に農村部に住み、資源の管理と家計の運営を担っている女性や少女は、気候ショックに対してとりわけ脆弱です。女性と少女が、家族に対し飲料水、調理用水、衛生用水を供給する責任を負っているからです。世界の約18億人が、居住敷地外にある水源からの飲料水に頼っており、敷地内に水がない10世帯のうち7世帯で、女性と少女が水確保の責任を担っています

気候変動は、世界的規模で水資源に重大な影響を与えています。干ばつはより頻繁に、より深刻になりつつあり、降雨パターンはますます予測不可能になっています。世界の女性人口の10%、約3億8,000万人の女性と少女が、水ストレスが高い、あるいは、危機的である地域に住んでおり、この数字は2050年までに6億4,700万人に達すると予想されています。

干ばつの間、女性と少女は家族に供給する水を確保するために長い列に並び、長い距離を歩きます。イラクでは、女性は水の確保に1日最大3時間をも費やします。インドでは、女性や少女が1日に50分以上かけて水を汲みに行くのに対し、男性や少年は4分です。

ネパール・シンドゥリ郡ラニチュリ村の零細農家、チャンドラ・カラ・タパさん。
写真:UN Women/ナレンドラ・シュレスタ

干ばつは女性の食料不安を深める

また、女性は男性よりも大きな食料不安に直面しています。食料が不足すると、まず男性や少年が先に食事を与えられ、女性は最後に、そして、ずっと少ない量の食料を口にするのが一般的です。干ばつにより、多くの女性と少女は自給自足の農業や活動に従事せざるを得なくなり、家族のために十分な食料を供給しようと努力するため、仕事量が増えます

気候ショックは、女性と少女による健康管理のための無報酬労働を増加させる

気候危機に関連した疾患の増加は、女性と少女が担うケア労働の負担に不釣り合いな割合で影響を及ぼしています。インドのデリーとバングラデシュのダッカで行われた調査によると、女性は、家族の一人が集中豪雨による水系感染症など、気候に関連した病気にかかった場合、1日あたりさらに平均1時間をケア労働に費やすことを示しました。

妊娠中の女性にとっては、干ばつや食料不足に関連した妊娠損失(流産等)を含む合併症のリスクが高まります。

女性たちは無報酬の"持続可能性の救世主"

歴史的に、女性と少女は廃棄物処理、森林再生、土地の再生といった気候変動緩和の活動を担ってきました。気候危機が拡大するにつれて、環境ケアの負担が男女間の一層の不平等と女性と少女が地球のケアに費やす時間を急増させています。

女性が気候正義(climate justice)と持続可能性への取り組みの最前線にいるのは、ひとつには、安全で清潔、健康的で持続可能な環境へのアクセスが彼女たちの家族にとって死活問題であるからです。多くの女性が気候変動対策に取り組んでいるのは、彼女たち自らが地域社会の主要なケアテイカーとしての役割を果たすことを不可欠だと考えているからです。

気候変動の影響に取り組む上で女性が重要な役割を担っているにもかかわらず、女性の環境人権擁護者は、ジェンダーに基づく暴力や女性殺人の増加に直面しています。2022年には、少なくとも401人の人権擁護者が殺害され、そのほとんどがラテンアメリカで、17%が女性でした。女性たちは、また、先住民族のコミュニティ内でも、人権擁護活動は時間の浪費であると非難する抵抗勢力と対峙し、中傷や脅迫、身体的攻撃にさらされています

ケア社会とは何か?

世界は、気候に関する議論では見過ごされがちな、一見異なるが深く絡み合った2つの危機に直面しています。

1つ目の危機は、主に女性と少女が担っている無報酬のケア労働の、誰にも気づかれない不平等な分配を中心とした危機です。もうひとつは、気温の上昇と急務である温室効果ガスの排出削減に特徴づけられる、迫り来る気候の緊急事態です。これらの危機は一見無関係に見えるかもしれませんが、表裏一体の関係にあり、私たち皆が共同で関心を持ち行動をとることを求めています。

驚くべきことに、パリ協定の締約国が温室効果ガス排出量削減のために採用することを計画している対策や行動である「国が決定する貢献」(NDC: Nationally Determined Contributions)のうち、女性と少女の無報酬のケア労働に言及しているのはわずか11%で、女性や少女の労働負担を軽減するための行動を盛り込んでいるのはカンボジアだけです

第66回女性の地位委員会(CSW)は、「天然資源と生態系、そして、女性の労働は、すべての経済と、現在および未来の世代、そして、地球の幸福にとって不可欠であるにもかかわらず、GDPのような今の経済成長指標では、無限のものとして扱われ、過小評価されている」と警鐘を鳴らしています。

この複雑な状況の中で、ケア社会の概念は、天然資源、化石燃料、そして、人命の採取と搾取に基づく今の経済開発モデルに対し緊急に取り組むべき代替案として浮かび上がってきます。それは、人と地球の両方をケアすることが重要な任務であることを強調しています。ケアというもののかけがえのない価値を認識することは、女性と少女が現在負っている、そして、気候変動という緊急事態の中でますます大きくなっている不平等なケア負担に取り組むことと同様に、欠くことのできない大切なことがらです。ケアの提供は、国家、市場、地域社会、そして、家族が関わる共有の責任であるべきです

Unpacking the care society: Caring for people and the planet | UN Women – Headquarters

カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会

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