「難民女性の声が重要です」– 難民福祉委員会初の女性委員長、グレース・ニーマ・ケミスさん(南スーダン難民)
2024年8月8日
難民のほぼ半数が女性と少女であるのに、その声は意思決定になかなか反映されません。UN Womenは、ウガンダで難民女性を対象にリーダー育成プログラムを実施しています。世界難民の日(6月20日)にあたり、グレース・ニーマ・ケミスさんのストーリーから勇気を得ましょう。
2024年6月14日
午前9時、ウガンダのユンベ県にあるビディビディ難民居住地。グレース・ニーマ・ケミスさんの電話は5分おきに鳴っています。電話をかけてくるのは、主にその日に開かれる会議の準備をしている村のリーダーたちです。ケミスさんは一人ひとりに熱心に対応しています。
南スーダンの難民である34歳のケミスさんは2024年4月、難民福祉委員会Ⅲの委員長に選ばれ、ビディビディ難民居住地の委員会で最高位に就きました。初めての女性委員長ですが、その道のりはたやすいものではありませんでした。
南スーダンでの紛争と飢餓から逃れて、ケミスさんは5人の子どもたちと一緒に着の身着のままでウガンダにたどり着きました。彼女は、自分たちの境遇に左右されることを望まない難民女性の強靭性と決意を体現しています。
当初、彼女は絶望しました。「それまでに築いてきたすべてを失いました」と振り返ります。南スーダンでは銀行の支店長をしていましたが、住んでいた町で紛争が勃発し、約束されたキャリアや快適な自宅を捨てて避難することを余儀なくされました。
アフリカで最大の難民居住地であるビディビディに着いても、生活は過酷でした。しかし、自分の生活を立て直し、他の人たちが立ち直るのをサポートとしたいという希望を原動力に耐え抜きました。このとき、彼女のリーダーへの旅が始まったのです。
難民女性のリーダーとしての能力を高める
2019年、ケミスさんはノルウェー政府からの資金提供を受けたUN Womenのプログラムの一環である、「Refugee Law Project」が開催した一連のリーダーシップ研修に参加しました。研修を通して、問題を明確化することと変化を求めて声を上げることを学びました。研修に参加したケミスさんは、難民福祉委員会の委員長に立候補することを決意しました。「男性よりも女性の難民が多いのに、リーダーを務めている女性がいないことに気づいたのです」と彼女は言います。「女性がリーダーになれるのであれば、この居住地から始めればいいと思いました。委員長に立候補するという決意を胸に研修から戻りました」。
新たな自信を得たケミスさんは、4人の男性候補者と委員長の座をめぐって争いました。最初の選挙では勝つことができませんでしたが、彼女の決意と努力によって、国内の「難民エンゲージメントフォーラム」で難民を代表する重要な役割を果たすようになりました。このフォーラムを通して、多くの難民の声を広めることができました。そして、きれいな水の入手や医療機関の紹介など、難民のニーズや優先事項に向き合うよう意思決定者に働きかけました。ケミスさんの献身的な取り組みが地域社会に共感を呼び、2024年4月、女性として初めて難民福祉委員会の委員長に選ばれました。
重要なのは居住地の難民の多数を占める女性と少女の声
ケミスさんは自身が経験してきたので、難民女性が直面する特有の課題を理解しています。「女性は多数派ですし、女性のリーダーは女性の皆さんに共感することができます」と言います。委員長としての任期の先を見すえ、「より多くの女性がリーダーの役割を担えるようにしたいと思います」とも言っています。
一方で、難民女性のリーダーシップの強化が当たり前には進められないこともわかっています。「現在に至っても人前で話すことをためらう女性がいます。また、女性は人前で話すべきではないと考える人もいます」。ケミスさんによると、ビディビディ居住地においては現在、教育と金融の分野で女性のリーダーシップを促進するために女性に割り当てられた役割があるそうです。
2023年に家を追われて避難せざるを得なかった1億2千万人のうち、49%が女性と少女でした。 過去1年だけでも9万6,889人の難民がウガンダに逃れ、2024年5月時点で難民の総数は154万7,981人から164万4,870人に増えています。その大多数は、南スーダンとコンゴ民主共和国から来た人たちです。
「このような長期化した危機においては、難民女性の声とその実体験に基づいたサービスや政策が必要です」とパウリナ・チワングUN Womenウガンダ事務所代表は言い、次のように続けました。「女性のリーダーシップの活用は、被害を受けた地域において人道支援活動がジェンダー特有のニーズに確実に対応するために役立つだけでなく、地域社会のより強い関与、強靭性、自立への戦略的投資にもなります」。この5年間、UN Womenの取り組みによって難民のリーダーの役割に就く女性が増えており、ビディビディ居住地とアジュマニ居住地では女性の割合がそれぞれ47%と54%になっています。
グレース・ニーマ・ケミスさんは、難民の少女が教育を優先する未来を夢見ており、それが機会とリーダーへの道を開くと信じています。世界難民の日に、彼女は「難民女性の声が重要です」という明確なメッセージを寄せています。世界のリーダーに対して、難民の女性と少女に教育とリーダーシップと生計の機会をもっと与え、その強靭性を認識するよう強く訴えています。
(翻訳者:早乙女由紀)
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会