暴力で傷ついた心を演劇で癒すレバノンでの取り組み
2019年3月3日
ジェンダーに基づく暴力撤廃に向けた16日間
人形劇を交えた観客参加型の演劇をつうじて、男女が自らの権利について忌憚なく発言し、参加者の中には地域社会で啓発活動を始める人もいます。
レバノン北部の小さな村、テクリートで行われた夜の公演では、150人以上の観客が小さなステージを囲みました。
淡いステージライトの下でディアとその妻が隣人夫妻を自宅に招いている。
ディアが妻に「おい、フルーツを持ってこい」と言わんばかりのしぐさをする。
妻は見るからに怯えたようすで「冷蔵庫にフルーツはないの」と返す。
カっとなったディアは怒りの形相で妻のもとへ向かうと、客夫妻の夫が立ち上がって落ち着かせようとする。
「大丈夫だ。座っていてくれ」とディアは安心させるように言う。
ディアが妻を引きずって舞台袖に消える。妻の悲鳴と叩く音に動揺する隣人夫妻。
妻は夫にディアの妻を助けるよう言うが、夫は首を横に振り、大声で「ディア、帰るからな」と言う。
ステージライトが暗くなると、出演者が再登場し、観客に演劇を見終えて考えたことをまとめてもらい、同じような場面で女性を暴力から守る方法を提案してもらいます。
ジェンダーに基づく暴力についてもう一度考え、自分の住む地域でもこうした問題に目を向けて議論できるようになってもらうことを目的とした芸術活動に、2017年以降、地方やシリア難民が暮らす地域から900人以上の男女が参加しています。
この活動は、UN Womenが中東・北アフリカ地域で女性の権利向上を目指すNGO団体ABAADとパートナーシップを組んで運営しています。
「芸術には、日常の問題について、これまでとは全く違った視点で考えるための想像力や独創性を引き出す力があります。立ち止まってじっくりと考え、私たちがとらわれている悪循環から抜け出す方法を見つける機会を芸術は提供してくれます」とABAADの理事であるジーダ・アナーニは言います。
公演では中東地域の文化で語り部を意味する「ハカワチ」をつかった人形劇も行われます。語り部がいることで、女性が直面した差別の実話を取り上げた劇中の人形の態度や振る舞いを吟味することができます。
マジダル・アンジャル村の人形劇公演に参加する女性 写真:ABAAD
公演がきっかけで、開催地周辺地域の女性が暴力被害の相談に訪れることがよくあります。ABAADはそういった人達に、カウンセリングや法的支援を提供しています。
公演にはバズビナやテクリートの農村地域出身の若者も参加しています。演技のテクニックや観客の前での話し方などのトレーニングを受けてから、働く権利を含む女性の権利、早婚によるリスクなどについて理解してもらうために学校を回って公演を行っています。
25歳のチャディ・レストムは「公演に参加することで、地域社会の中で私たちが積極的に社会を変えていこうとしていることがわかってもらえるようになりました」と説明します。また、このイニシアティブが地域社会をひとつにするのに役立っていると強調します。「レバノンとシリアの人々が同じ劇団にいることで多様性が確保され、様々なバックグラウンドを持つ観客とつながりをつくるのに役立ちました」。
これらの活動はUN Womenのレジリエンスプログラムの一環として、フォード財団と日本政府の資金援助を受けています。
UN Womenレバノン地域担当事務所長の特別代表をつとめるベゴーニャ・ラサガバスターは「UN Womenは行動変革、社会改革を起こす革新的な方法を模索しています」と説明します。「暴力の問題について積極的に発言するように女性と少女を促し、あらゆる形の暴力を防止し根絶する歩みを加速させる取組みに男性と少年を参画させるために、このような社会横断的な市民社会によるイニシアティブをUN Womenは支持します」。
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In Focus: Orange the World: #HearMeToo
111UN Women Weekly News Update, 11/12 – 11/26/2018より
(翻訳者:高尾紀章)
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会