かつて妻を殴ったことを恥ずかしく思い、心を改めました
2018年12月2日
ある水曜日の午後9時。ベトナムの大都市ダナン。自宅を兼ねた店の外で、6人の男性グループが座ってビールを飲みながら、最近の政治経済のニュースについて話しています。店内では、退職した56歳のヴ・ディン・コイさんが掃除をし、使ったコップを洗っています。
「妻は寝ています。不眠症なので、たいてい早く床に就きます。いつも真夜中に目を覚ましてしまい、その後寝付けないようで、ほとんど毎晩4時間くらいしか眠っていません。家事や雑用は私がこなしているので、妻は夜ゆっくり休めています」と、コイさんは言います。
コイさんは、この地域では多くの男性が依然として「自分は家族の大黒柱」であり、「女性は台所にいるもの」と思っていると話してくれました。「家事は男がやるものではないと思っているので、男性はめったに家事をしません。自分の力を見せつけるために、妻に暴力を振るう者さえいます」。
メイル・アドボケート・クラブ(男性を対象とした啓蒙活動をするクラブ)に参加して以来、自分が大きく変わったとコイさんは言います。このクラブは、2016年にUN Womenとダナンのホア・フォン地区にあるダナン女性ユニオンが設立したものです。クラブのトレーニングに参加して、コイさんは、女性や少女に対する暴力を引き起こす根本的な原因について理解を深めました。また、ジェンダーに基づく固定観念があるため、支配的な男らしさを表現しなければならないというプレッシャーに男性が負けてしまうこともわかりました。
「すべての原因は、ベトナムで長年受け継がれてきた家父長制度にあります。男性がこの家父長制度の存在を自覚し、自分の行動を変えるには時間がかかります。しかし、家父長制度に従うことは、本当の意味で自分を大切にし、他人を理解することへの足かせになるということを、誰もが認識する必要があります。家父長制度は男性自身をも傷つけるのです!」コイさんは確信と信念をもってこう訴えます。
「かつて妻を殴ったことを恥ずかしく思い、心を改めました」。
ダナン市の職員を退職した65歳のタム・キムさんは、妻を殴った過去を打ち明けました。コイさんのメッセージが正しいということがわかります。
タム・キムさんもメイル・アドボケート・クラブのメンバーですが、「もう決して暴力は振るいません。暴力を振るうことが男らしいという文化には、一切加担しません」と話してくれました。
「今では、マーケットで食品を買ったり家を掃除したり料理をしたりしています。これまでの私には考えられないことです。トレーニングを通して、自分の怒りをコントロールして抑える方法を学びました。以前は、私が反対するようなことを妻がすれば、怒鳴ったり逆上したりしたことがよくありました。でも、今後一切、妻に対して暴力を振るうことはありません。暴力は良くない手段です!」。
「隣人が奥さんに暴力を奮っていたので、私はドアを突き破りました。止めなくてはと思ったからです」。
メイル・アドボケート・クラブの目的は、メンバー個人の行動を変えるだけではありません。メンバーが学んだことを地域に持ち帰り、周囲の人に良い影響を与えることも後押ししています。
「2年前、隣人が奥さんをひどく殴ることがありました。奥さんが泣いて許しを請うのが聞こえましたが、何もできないと思っていました。隣人はドアを閉め、誰かが止めに来たときのために、近くに大きな棒を置いていたからです。でも、隣人が奥さんに暴力を奮っていたので、私はドアを突き破りました。奥さんが殴られるのを止めなければと思ったからです!」と、ダナンのホア・ヴァン地区にあるメイル・アドボケート・クラブのメンバーである54歳のトラン・コック・ハングさんは、その時のことを思い出して言いました。メイル・アドボケートのプログラムを受ける前は、家庭内暴力は「個人的なこと」であり、「夫が妻に振る舞い方を教えるために持つ権利」だと村の多くの男性が思っていた、とハングさんは話してくれました。しかし今では、その多くが、妻に対する暴力はどんなものであっても許されないと認識しています。
「その次の日、私はメイル・アドボケート・クラブのメンバー二人と一緒にその隣人の所へ行きました。外に出てコーヒーを飲みながら、暴力は奥さんや娘さん、そして彼自身にもよくない結果を招くことを説明しました。初めはうまくいきませんでしたが、数か月にわたって私は根気強く彼に話し続けました。今では、彼が奥さんに暴力を振るうことはありません」。
ダナンでのメイル・アドボケート・クラブについて
メイル・アドボケート・ボランティア・クラブは、ベトナムのダナンにおいて女性と女児に対する暴力(VAWG)を防止するために、暴力的な男らしさを変え、互いに尊敬し合える関係作りを促進することを目指すUN Womenの活動の一環です。このプロジェクトは、UN Women、国連ボランティア(UNV)、パートナーズ・フォア・プリベンション(女性と女児に対する暴力防止プログラム)の技術支援を受けながら、ダナンの女性ユニオンが実施しています。「男性と暴力に関する多国研究(UN Multi-Country Study on Men and Violence)」で明らかになった、女性と女児に対する暴力の主要なリスク要因に対して介入を行います。男性がジェンダーに基づく暴力を振るうリスクを高める要因として、この研究で明らかになった注目すべきものには、幼少期に受けた暴力、女性は服従するものという考え、暴力的な男らしさに対する称賛、男性は「強い」というイメージなどがあります。
介入では、すべての年齢の男性に対し、暴力的な男らしさを変え、地域社会においてジェンダーに基づく暴力防止を説く人になるよう働きかけます。男性メンバーは、1年間トレーニングを受けてVAWGとジェンダー平等について自らを振り返りながら討論します。その後、スキルを使って、学んだことをより広い地域社会の中の男性に伝えます。2015年以降、ダナンでは200人を超える男性が介入に取り組み、その影響は地域社会で2,000人以上に及ぶ見込みです。
話と写真:タオ・ホアン
UN Women Asia and thePacific Newsletter April-August 2018より
(翻訳者:武藤洋子)
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会