夫亡き後の人生-寡婦の権利、尊厳、正義
2018年8月21日
伴侶の喪失は耐え難い苦痛です。多くの女性の場合、ベーシックニーズ(生きていくのに最低限必要なもの)や人権、尊厳を求めて長く奮闘しているうちに、この喪失が重くのしかかってきます。生活の基盤となる土地の相続権を認めてもらえなかったり、立ち退きにあったり、また、望まぬ再婚やトラウマになるような風習を無理強いされたりすることもあります。後ろ指を終生さされつづけ、仲間外れにされ、恥に苦しみます。さらに、このような悪習は多くが見過ごされ、常態化していることさえあります。
現在、世界には約2億5800万人[1]もの未亡人がいて、ほぼ10人に1人[2]が極めて貧しい生活をしています。女性特有のニーズがあっても、その声や体験が彼女達の生存を左右するような政策には届かないままになっているのがしばしばです。
未亡人の声や体験に耳を傾け、彼女らが求める、未亡人という状況にあった支援の実現へ社会を突き動かそうと、国際連合は6月23日を国際寡婦デーとしています。
今回は、尊厳と喜び、大きな志のある人生を求めて、壁を乗り越えながら私達UN Womenとともに働く未亡人の声をいくつかご紹介します。
「娘達には私の人生からインスピレーションを得てほしい」マハ・アシ・エム・アラーさん シリアから
マハ・アシ・エム・アラー 写真:UN Women/ローレン・ルーニー
マハは夫に先立たれた後、ヨルダンザータリ難民キャンプに設置されたUN Womenが運営するウィメンズ・センターにやってきた40代のシリア難民です。女手一つで自身と子ども達の生活をつむいでいかなければならない前途に押しつぶされそうになりながら、パートナーを失った深い悲しみでひどいうつ病にかかり、それと戦ってきました。マハは現在、ウィメンズ・オアシスで洋裁師として働き、心の支えとなる女性同士のネットワークも見つけました。
「オアシスのおかげで子ども達を養えるようになったばかりか、オアシスは心が穏やかになれる場所になりました。同じような境遇を乗り越えてきた同世代の女性が周りにいるので、互いに支え合う仕組みと友人ができました」とマハは言います。「娘達が私の通った道、つまり、生活が苦しい中、女性一人でもここまでやれるということを目の当たりにして、インスピレーションを得てほしいと思います」。
「私の夢は自分のコミュニティがソーラーエネルギーの恩恵を受けることです」マーサ・アリシア・ベナベンテさん グアテマラから
マーサ・アリシア・ベナベンテ 写真:UN Women/ライアン・ブラウン
マーサ・アリシア・ベナベンテは夫に先立たれた後、女手一つで4人の子どもを育て上げた母親です。最近までインドのベアフット・カレッジ(裸足の大学)でソーラーエンジニアになるための訓練を受けていました。その前は家政婦をしており、勤め先の家でその家の子どもの世話のため長い時間を過ごすので、自分の子どもの世話はほとんどできません。それでも、家族を十分に養えるほどの収入は得られていませんでした。技術を手にした今は、1個あたり最大200ケツァールと、家政婦をしていた頃の月収のほぼ半分の金額で売れるソーラーランプを作ることができます。
「インドのベアフット・カレッジにいた6か月間は楽なものではありませんでした。病気になり、あのまま家政婦をしていた方がよかったのでは、との思いが頭をよぎることがありました。ですが、少しずつ、一つ一つ学んでいきました。ソーラーランプの作り方を身に着けました」とマーサは言います。「私の夢は自分のコミュニティがソーラーエネルギーの恩恵を受けることです。インドに行くために一生懸命努力しましたが、それは自分のためだけではなく、コミュニティ全体のためでもあるのです。戻ってきてくれてうれしい、今、私達には明かりがあると、みんなが言ってくれます」。
「今、生まれてはじめてこれは自分のものだと言えるものができました」ハティージャ・マラー パキスタンから
ハティージャ・マラー 写真:UN Women/ファリア・サーマン
ハティージャ・マラーは農業しか知りませんでした。子どもの頃に父親について農作業をはじめ、13歳で結婚してからは夫とともに続けました。夫が亡くなったとき、まだ手のかかる8人の子どもと残されました。その上、ハティージャが生まれ育った場所では、女性は土地の相続を受けられないという理由から、自分が収穫した作物や耕していた土地に対してなんら公的な権利がありませんでした。小作契約によって彼女を含む1,000人を超える土地を持たない女性に小作権が与えられました。契約では期間中、地主が女性に土地を貸し、住む場所が与えられ、その土地で農業を営み、収益の一部を受け取る機会が与えられます。女性達も小作契約の準備の仕方や土地図の作り方を学びました。
「法に則って土地と住む場所があり、自分が植えて収穫した作物の一部を手にすることができるなんて想像できませんでした。自分の権利や小作契約の利点を学びました」とハティージャは言います。「今、人生ではじめて自分のだと言えるものができました。この土地は見渡す限りが私のものです。契約書にそう書いてあります。ここは私の土地で、私はこの土地の女王なのです」
「せめて、子ども達の世代が苦しまないように」ナデジェ トーゴから
南トーゴのある村の女性達 写真:UN Women/ヴェスナ・ジャリック
ナデジェ※が夫を亡くした後、南トーゴのある村にある彼女の集落は、寡婦への風習の一環として、ナデジェに集落が選んだ男性との性交を強制し、 孤立した生活を強いました。トーゴの法律では、このような悪習を拒否する権利が女性に与えられていますが、多数の部族や田舎の村落にはこうした苦痛をともなう風習が今も残っています。このような風習では未亡人は相続が許されず、また食事も十分にとらせてもらえず、収入を得る活動ができないような状態にされます。
現在、ナデジェは国連女性に対する暴力撤廃信託基金(UN Womenが運営)の支援を受けたNGOアラフィアのサポートのもと、このような悪習に反対する意見をはっきりと口にしています。アラフィアは、こうした寡婦への有害な風習を存続させている考え方を変えようと、田舎の村落の中で活動しています。
「せめて、子ども達の世代が苦しまないように。自分の敵にさえ同じ目に会ってほしくないと思うほどの悪習なのです」とナデジェは言います。
※個人のプライバシー保護のため、名前は変えてあります。
脚注
[1]ルンバ財団分析のThe Global Widows Report 2015. Londonより。UNSD(国連統計部)の人口データに各国の国勢調査、人口統計データを加えたものに基づく。
[2]Turning Promises into Action: Gender Equality in the 2030 Agenda for Sustainable Development(約束を実行へ:持続可能な開発のための2030アジェンダにおけるジェンダー平等)。UN Women。2018年。
UN Women Weekly News Update, 18-25 July 2018より
(翻訳:高尾紀章)
カテゴリ: ニュース , 国連ウィメン日本協会